■森美術館は昨年末から改装工事に入っていました。「美術館」と言いつつも自前の収蔵品を持たない、ギャラリーのような運営だったと聞いたことがあったような憶えがあるのですが、収蔵作品もあって、ただその常設展示するスペースを持っていなかったということらしく、今回の改装で常設展示スペースも作られたのだという。
リニューアル工事そのものは美術館だけでなく、六本木ヒルズ最上階の展望フロア全体に行われたようで、観に行った時は展望フロアはまだ改装工事中でした。
改装工事後の最初の展示は「シンプルなかたち展」。森美術館とポンピドーセンター、エルメス財団の共同企画というふれこみで、現代美術のなかでもシンプルなフォルムを持った抽象表現の作品を取り上げ、そのフォルムが太古から引き継がれてきたデザインの中に起源があることを示しています。現代美術を過去からの連続性の中に位置づけられることを示すというコンセプトの企画展は珍しくはないですが、有史以前の磨製石器まで引き合いに出してきたのは初めて目にしたように思います。確かにプランクーシの鳥をモチーフにした抽象彫刻は磨き上げた石の形によく似ています。
面白かったのは李禹煥の「関係項 サイレンス」という作品でした。壁に掛けられた真白いキャンバスとその手前の床に置かれた岩から構成されているシンプルな作品ですが、岩にしろキャンバスにしろ、何か手が加えられているわけではありません。ただ自然物の岩と、人工物のキャンバスが対比されているだけです。複雑なディテールを持つ岩は自然物であり、シンプルで抽象的なフォルムを持つキャンバスは人工物そのものです。美術家の創作活動は存在感を持つ岩を白いキャンバスへ転写するようなものなのかもしれません。岩から白いキャンバスへの転写には無限の可能性があり、無垢の岩とキャンバスの間には制約がありません。もっと手垢のついた喩えを持ち出せば、それは単なるイデア論ということになるでしょうか。表現手段に制約があるために、美術家は表現したいものそのものを作り出すことはできない、といったような。
展示会場はリニューアルして間がなく、時間的制約が強かったからなのか、いつもの企画展に比べると作品数が少な目で、妙に間延びした感がありました。展示スペースがたっぷりあって、あまり混み合った感じがなかったのは反面良かったのかもしれません。今年は森美術館では村上隆の企画展もありますし、楽しみです。