■バイオレンスな『パトレイバー』なんですけど、ビジュアル的に意味のあったコミック・アニメと違って小説でパトレイバーって、今ひとつ意味が薄いというか、別に武装外骨格でなくても良かったんじゃないのか。ちなみにもちろんパトレイバーではないんですが。どっちかというと押井守の『ケルベロス』の方に近いかもしれない。
かなり至近未来の設定ということが墨田区界隈や横浜の描写から伺える。殆ど現代と読んでも差し支えないくらいで、そうした舞台で軍用二足歩行機械が登場し、PMCが警察に雇われている。パラミリタリー的な活動が日常生活の中で普遍的なものとなりつつある世界は、最近読んだ『虐殺器官』とも似ているが哲学的な要素はなく、エンターテイメントとしての警察小説に徹している。
ただ、マスタースレイブの徹底した機械による戦闘の描写は肉体を使った戦闘描写と大差なくなってしまい、またその運用場面も冒頭と結部だけで、メインは地味な警察活動シーンとなる。作者の書きたかったのはあくまでもポリス・ストーリーであって、パトレイバー的(あるいはアップルシード的)なマシン・アクションは追加のケレンだろう。
伝説の傭兵、伝説のテロリスト、警官くずれ、警察組織本流から外れた特殊活動部門、敵性勢力は警察組織自体を目標としているらしい。お膳立ては十分で、癖のある登場人物達の回想を積み重ねる構成は手馴れたもの。
冒頭のテロ活動首謀者を無力化して物語としては閉じるが、その背景にあると思われる「巨悪」の存在をにおわせて終る。その点で消化不良の感は残るが、続編を期待させて十分な作品だ。
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