■てっきり去年・一昨年に流行した浮世絵企画展かと思っていたのですが、違いました。幕末の浮世絵絵師、国芳を起点として明治・大正・昭和と発展してきた日本画の系譜をなぞるもの。国芳作品はたっぷり見ていたのであんまり気が進まないところはあったのですが、その後日本画へと展開していく過程は面白かったです。普段目にする浮世絵、日本画というのはある程度成熟したところでの断面を見ているので不連続のように思えるのですが、並べてみると古い要素を少しずつひきづっていることが分かります。
浮世絵に比べると日本画はリアルな描画がされていることに気が付きますが、たぶんそれは画材の違いから来ているように思います。筆と墨の下絵を基にした木版の多色摺りと、油彩と共に入ってきた遠近法や陰影法の技術とでは写実化のレベルに違いが出るのでしょう。ただ、モチーフに選ばれる題材や構図は浮世絵の時代と似通っています。それは見る側や描く側の好みそのものに違いはないということなのでしょう。時代やスタイルが変わっても、日本人は花鳥風月を描き、浮世を描き、日本の風土を描き、美人を描く。
面白かったのは、幕末期の浮世絵で洋画の影響が入っていく過程。良いものを取り込んでいった、というよりも、浮世絵というスタイルにもともと拘りがなかったのではないのかなという気がします。その時々でかっこいいもの、人目を惹くものを貪欲に取り込もうとしていたのだろうと思います。そういう意味では自己表現的なアーティストではなく、ずっと商売っ気が多かった、そもそもそうでなければ「浮世絵」とはならなかったのでしょう。
同時展示のコレクション展「光をめぐる表現」も面白かった。こちらは撮影可能(フラッシュ禁止)だったのですが、カメラを向けると明度調整が自動で行われるので肉眼で見えるものと異なる絵画が現れることがありました。デジカメはわずかな階調の差を強調しているのですが、肉眼では闇の向こうにぼんやりと明るいものがあるように見えるだけの作品に、実はダイナミックな表現が埋もれていることがわかることがありました。肉眼で見ているものは、世界のほんの一部の様態でしかないのですね。目が悪くなっているだけかもしれませんが。