■他者とのコミュニケーション、さらに言えば異性へのコミュニケーションを要素として持つ短編集。他の短編集やアンソロジーに収録されている作品もあったけれど、個人的にはおおむね未読。印象に残ったのは冒頭のジュブナイル『都市彗星のサエ』、イーガンを彷彿とする『守るべき肌』、これまたベンフォードを彷彿とする『青い星まで飛んでいけ』でしょうか。
『都市彗星のサエ』は閉塞空間から脱出を図ろうとする若い男女の物語。地方都市でくすぶっている若者が都会に出ようと目論む話のバリエーション。面白い点は視点となる男女が技術者で、自分が使えるリソースを工夫して脱出しようと試みることだろう。やりようによっては管理社会への反発とか少し青臭い話にもできるけれど、そちらには倒さず、あくまでも主人公の内部から溢れる外界への憧れをモチベーションとしている点が瑞々しさとなっている。
それとまたこの短編が面白かったのは、読んでいてずっと絵が思い浮かんでいることだった。具体的にはカサハラテツローの『空想科学エジソン』とか『ヴァイスの空』のあたり。
『守るべき肌』は計算機空間内で意識を構成する人々とその外の世界の人との接触を描いた短編で、イーガンの『ディアスポラ』とベンフォードの『銀河の中心』シリーズと映画の『マトリクス』を足して3で割ったような。
『青い星まで飛んでいけ』もまたベンフォードの『銀河の中心』を連想しました。恒星間を遊弋する機械生命体のコンプレックス。さかのぼれば自己繁殖型の恒星間探査ロボットに辿り付くのでベンフォードから、というわけではないのですが、そんな印象を。
いずれもコンタクトがテーマになっていて、それがボーイ・ミーツ・ガールの構造と重なるのだけど、個人的にはそちらはどうでもいい。物語の枠が大きなスケールで広がっているけど、それがプライベートなサイズに縮まってしまう。それはマーケティング的な要請があったのかもしれないけれど、結果的に内向きの視線に収まってしまっているようで、少し物足りなくもある。