『地球最後の野良猫』

■ライトノベルのように見えて、実際には地に足がついている。予定調和ではなく、だいぶ現実的な結末が用意されている。ジュブナイルだけど、甘くはない。SFというよりもポリティカルフィクションを読んでいるような感覚がずっと続いていた。ビジュアル的には英国のSFTVドラマを観ているようなイメージ。

 架空の人にも感染する「猫インフルエンザ」のパンデミックを世界規模で経験した近未来。全ての猫は管理下に置かれ、管理下にない猫の所有は非合法化されている。そんな世界で主人公のジェイドは一匹の野良猫に出会う。出会ったら最後で、非合法だろうと何だろうと飼ってしまう。飼わずにはいられないのだけれど、そのことは秘密にしておかなければならない。
 しかし、秘密というものはいずれ漏れるもの。コミュニティプロテクト──〈コンプロット〉による束縛の手から逃れるために少女の逃避行が始まる。

 そこにジュブナイルらしく子供の恋愛が絡んだりするわけだけど、ほぼ大半は子供二人の家出のような道行き。大事な猫を連れていることがバレないように苦労しながら移動したり、あるいはずるい大人に猫を取り上げられそうになったり、取り戻したり。
 しかし、市民生活を抑圧する暴力装置であるコンプロットの締め付けは次第に強くなり、それに応じるようにして子供達の対抗手段も次第にエスカレートしていく。ジェイドは非暴力で通したいのだけど、それでは猫を守れない。誰もがガンジーのようになれる状況にあるわけではないのだ。

 物語は中途半端な終り方をするが、意外な終り方ではない。「野良猫」は自由ではあるが、もちろん楽な生き方というわけでもない。やわらかいベッドのある部屋に軟禁されるような生き方と、路傍で気ままに流れるような生き方、という対比は極端ではあるけれど、しかしどちらを選んでもその選択を責めることはできない。ただ、どちらの道を選んだにせよ、自分が選択したのだということには自覚的であるべきで、その判断を他人に預けるのは主体性を放棄したのと同じだろう。
 ジェイドが失ったものは決して小さくは無かったし、それが彼女の得たものと釣り合うのかは疑問が残るけれど、ただそれでも矜持を保ったのは確かだろう。彼女が得た最大のものはその経験であり、失ったものはそれだけの価値はあったのだろうと思う。

Copyright (C) 2008-2015 Satosh Saitou. All rights reserved.
戻る
■キーワード
日記::一覧展開
2016.06
卒検突破 (2016.06.26)
急制動 (2016.06.05)
坂道発進 (2016.06.04)
2016.05
スラローム (2016.05.29)
一本橋 (2016.05.28)
半クラ (2016.05.22)
2015.12
2015.11
2015.08
2015.07
2015.06
2015.05
EF50mm F1.8 STM (2015.05.24)
Private Private (2015.05.17)
NTPを整備する (2015.05.02)
2015.04
2015.03
2015.02
潮つ路 (2015.02.22)
未見の星座展 (2015.02.07)
2015.01
PSYCO-PASS劇場版 (2015.01.18)
2014.12
DOMANI/シェル (2014.12.20)
PHPでDMC (2014.12.13)
jouornald (2014.12.07)
2014.11
五木田智央展 (2014.11.08)
2014.10
山口勝弘展 (2014.10.26)
コンタクト (2014.10.18)
ケース加工 (2014.10.11)
山形旅行で (2014.10.04)
2014.09
聖地巡礼 (2014.09.27)
SIAF 2014(3) (2014.09.20)
SIAF 2014(2) (2014.09.14)
SIAF 2014 (2014.09.13)
RaspberryPi B+ (2014.09.06)
2014.08
ヴァロットン (2014.08.09)
GODZILLA(2014) (2014.08.03)
絵画の在りか (2014.08.02)
2014.07
クロニクル1995 (2014.07.26)
SDHCカード集め (2014.07.20)
SDカード再び (2014.07.05)
2014.06
2014.05
駆動系の整備 (2014.05.25)
無限の可能性 (2014.05.24)
PIOON (2014.05.17)
2014.04
大洗 (2014.04.19)
2014.03
唯美主義 (2014.03.09)
写真の境界 (2014.03.02)
2014.02
星を賣る店 (2014.02.15)
日常/オフレコ (2014.02.01)
2014.01
ISCP (2014.01.11)
DOMANI/シェル賞 (2014.01.04)
2013.12
ターナー展 (2013.12.14)
2013.11
反重力 (2013.11.02)
2013.10
木の器 (2013.10.20)
2013.09
ヒステリシス (2013.09.28)
LOVE展 (2013.09.08)
宙色 (2013.09.07)
2013.08
3/4だった (2013.08.17)
福田美蘭展 (2013.08.11)
2013.07
Fedora19 (2013.07.20)
2013.06
Google Cloud Print (2013.06.30)
未来の記憶 (2013.06.16)
梅佳代展 (2013.06.15)
片岡珠子展 (2013.06.09)
椿会展 (2013.06.08)
空想の建物 (2013.06.02)
wiringPi (2013.06.01)
2013.05
2013.04
箱詰め終わる (2013.04.13)
母-娘、姉-妹 (2013.04.06)
2013.03
卒展めぐり (2013.03.30)
恵比寿映像祭 (2013.03.16)
XBeeで接続する (2013.03.10)
Fedora18 (2013.03.09)
Black (2013.03.03)
2013.02
Backupその後 (2013.02.24)
Backup (2013.02.17)
音と光 (2013.02.03)
実験工房 (2013.02.02)
2013.01
いろはにほう (2013.01.26)
燻製を作る (2013.01.19)
2012.12
外装に収める (2012.12.23)
MU (2012.12.22)
スモーク (2012.12.01)
2012.11
Whirl (2012.11.25)
MOTアニュアル (2012.11.18)
2012.10
MPL1151A1 (2012.10.07)
2012.09
(2012.09.16)
夢の光 (2012.09.08)
光のアート (2012.09.01)
2012.08
東京湾大回り (2012.08.26)
2012.07
.hack//VERSUS (2012.07.22)
具体展 (2012.07.21)
国吉康雄展 (2012.07.15)
2012.06
2012.05
DHT11 (2012.05.12)
2012.04
PHPでIPCを行う (2012.04.22)
DHCPを立てる (2012.04.14)
DNSを立てる (2012.04.08)
2012.03
IPv6を追加する (2012.03.17)
MTUを調整する (2012.03.11)
2012.02
ICO再び (2012.02.26)
Viewpoint (2012.02.25)
恵比寿・2 (2012.02.19)
イ・ブル展 (2012.02.18)
恵比寿・1 (2012.02.11)
2012.01
星霜 (2012.01.01)
2011.12
2011.11
美女採取 (2011.11.27)
アサーション (2011.11.20)
日常/ワケあり (2011.11.12)
XB24-BとXB24-ZB (2011.11.06)
2011.10
家電入れ替え (2011.10.23)
2011.09
湿度センサ (2011.09.25)
銀座線ライン (2011.09.17)
竜宮美術旅館 (2011.09.11)
2011.08
しろきもりへ (2011.08.27)
2011.07
免許更新 (2011.07.31)
2011.06
京橋、新橋 (2011.06.26)
シンセシス (2011.06.18)
撤収の準備 (2011.06.04)
2011.05
風穴 (2011.05.15)
PLATFORM (2011.05.14)
2011.04
水・火・大地 (2011.04.17)
2011.03
パーティクル (2011.03.19)
恵比寿映像祭 (2011.03.12)
カナリア (2011.03.06)
2011.02
『ソルト』 (2011.02.19)
豊島美術館 (2011.02.13)
2011.01
藝大先端2011 (2011.01.23)
幽体の知覚 (2011.01.01)
2010.12
PWMで赤外線 (2010.12.26)
2010.11
『水辺にて』 (2010.11.06)
2010.10
アショカの森 (2010.10.30)
補遺の庭 (2010.10.24)
2010.09
シッケテル展 (2010.09.26)
音を鳴らす (2010.09.12)
2010.08
ハーフ (2010.08.21)
発電所美術館 (2010.08.01)
2010.07
2010.06
『未来医師』 (2010.06.13)
会田誠巡り (2010.06.12)
2010.05
桑原漁港 (2010.05.16)
欲望のコード (2010.05.15)
『第9地区』 (2010.05.02)
2010.04
春の海 (2010.04.18)
春の錦帯橋 (2010.04.17)
『機龍警察』 (2010.04.11)
2010.03
虹ヶ浜 (2010.03.28)
菊川湖再び (2010.03.14)
『虐殺器官』 (2010.03.13)
梶取岬 (2010.03.07)
絵画の庭@NMAO (2010.03.06)
2010.02
湯野温泉 (2010.02.06)
2010.01
2009.12
菅野ダム行 (2009.12.20)
2009.11
neoneo展 part2 (2009.11.29)
2009.10
広島ノ顔@HMOCA (2009.10.18)
末武川ダム (2009.10.10)
2009.09
吉宝丸@広島 (2009.09.20)
2009.08
2009.07
下松 (2009.07.12)
T4 (2009.07.05)
2009.06
仙台 (2009.06.07)
蕪島 (2009.06.06)
2009.05
2009.03
2009.02
2009.01
2008.12
神津佐仮説 (2008.12.21)
AVR HTTPサーバ (2008.12.20)
風景るるる (2008.12.14)
2008.11
南志摩・宿浦 (2008.11.22)
志摩あたり (2008.11.01)
2008.10
『剣の名誉』 (2008.10.18)
2008.09
石内都 (2008.09.06)
2008.08
宮島・厳島 (2008.08.30)
精神の呼吸 (2008.08.24)
西国行き (2008.08.23)
ICMP Echo応答 (2008.08.16)
MACフレーム (2008.08.03)
2008.07
小さな世界 (2008.07.26)
早送り (2008.07.20)
屋上庭園・他 (2008.07.13)
夢みる世界 (2008.07.12)
2008.06
古都の残像 (2008.06.01)
2008.05
北陸行 (2008.05.30)
ないまぜ (2008.05.24)
SDカード再び (2008.05.11)
GPSロケーター (2008.05.04)
2008.04
2008.03
音が小さい (2008.03.30)
STILL/MOTION (2008.03.22)
IAMAS2008 (2008.03.16)
80.7MHz/81.3MHz (2008.03.09)
橋頭堡 (2008.03.01)
2008.02
1998.11
『地球最後の野良猫』
ISBN:978-4-488-73601-9
作者:ジョン・ブレイク
訳者:赤尾秀子
東京創元社
創元SF文庫
作成:2010.06.28
公開:2010.07.24

Valid XHTML 1.1

loading image reserved place