■「フランシス・ベーコン」と聞いて、哲学者をつい連想してしまい、なんで国立近美で? と思ったのですが、美術家のフランシス・ベーコンという人がいて、その回顧展。「美術にぶるっ」展はスルーしていたし、竹橋はずいぶん久しぶりという気がします。
自分は美術史的な見方がすっぽり抜けているので今一つピンとこなかったのだけど、当時(1940年頃?)写実画と抽象画という2つの表現手法があり、その間をとった、とのことなのだけど、絵を観ていて感じたのは写真的な表現だなということでした。
写真は「写実」の極みのような気もしますが、シャッタースピードを落とすと動くものはブレて写り、極端に遅くすれば動くものは消えてしまう。その意味では「写実」ではないわけです。会場にあるベーコンの言葉には「目で見たものではなく、感覚でとらえたものをどのようにすれば描けるのか」といった内容のものがあるのですが、その点で現実を捉えているはずなのに目で見たものと違う景色を描き出す写真技術に惹かれたのではないか、と思いました。
スローシャッターで捉えた肉体は動線に沿ってブレ、あるいは二重露光すれば異なるオブジェクトは容易に溶け合います。ベーコンが描く人物画は初期の頃はたんにブレているだけなのですが、後期の作品になるとブレや二重写しではなく、意図的に人体をデフォルメして描くスタイルへ洗練されていきます。ただ、その歪み方は静的なものではなく、やはり動線を持ち、流れるように動く肉体として描かれているようです。そうした人物象を観ていると、モダンダンスパフォーマーのビデオを連想したのですが、その直後の展示室ではしっかりダンスパフォーマンスのビデオ上映もされていて、解りやすかったです。
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