■福岡にはもう十数回訪れているような気がするけれど、それでも博多界隈のみで、そういえば太宰府天満宮などには行っていなかった。もともと観光で行っているわけではなかったし。調べてみれば博多から大宰府はさほど時間がかからない。行ってみてもいいかなあと思っていた矢先に、太宰府天満宮でアートイベントが行われるという情報が。後押しされた格好で大宰府へ。
今回初めて知ったのですが、太宰府天満宮は過去、毎年この時期にアートイベントを実施していたとのこと。今回はライアン・ガンダー、'You have my word'。普段美術展示がされていない場所での美術展という点にある種の限界を予想しながらも行ってみた。
新幹線で博多。そこから地下鉄に乗って天神。そこで西鉄の天神大牟田線に乗り換え、さらに西鉄二日市で大宰府線に乗り換えて大宰府へ。乗り換えは確かに多いけど、そうしたプロセスは嫌いじゃない。博多周辺にスプロールする郊外の景色を眺めながら大宰府へ。
駅前から天満宮へ続く参道は参拝客でいっぱい。年末年始の鎌倉鶴岡八幡宮ほどではないにしても、たいそうな賑わい。初めて行くところなので勝手の解らなさに多少戸惑いながらも奥へ。戸惑ったのは境内に案内情報が皆無だったからなのですが、宝物殿という建物があり、その前に看板が出ていたのでそれと知りました。
宝物殿の中には'As reliable as change'と'Consequence of evidence'の2作品。どちらも作られたオブジェクトはなく、ある状況が用意されているだけという、コンセプト・アート作品ということになる。前者はアニミズム的な状況へと意識を向けさせられ、後者は不在であることを強調されることで、そこにあったであろう展示物の存在が意識させられる。
見る人の想像力を刺激し、その意識をある方向へ誘導する。見えているものが作品なのではなく、そこに見えないものが作品のテーマとなる。そうしたコンセプトに基づいて作られた作品が他に数点、境内のあちこちに展示されているのだけど、しかし、見つけ難い。もともとこの太宰府天満宮という場所がさまざまなモノであふれて背景が豊かな状況で、そこで「引き算」によって作品とするガンダーの作品はコンテキストの中へものの見事に埋没してしまう。何があっても、それが作品であることが解らないのだ。これはちょっと場所が悪いと思う。
面白かったのは境内の中では離れたところに展示されている'Really shiny stuff that doesn't mean anything'で、見かけはベアリングなどの金属パーツが寄り集まっている光る塊に過ぎない。しかし、それらのパーツをひきつけている磁力は見えない。その効果としてパーツが固まっているにすぎない。
展示されている場所は参道から本殿へ向かう経路とは外れた場所に位置していて、その展示場所からは本殿へ集まる人々を眺めることができる。この作品は、天満宮という場所のメタファーなのだ。大勢に人を集める力をこの天満宮という場は持っているが、それは眼には見えない。
その「力」の少なくとも一部が何であるのかは、この絵馬の数を見れば何となく解る気がする。