■原美術館へ通うたびに気になっていたのはハラミュージアムアークの存在。伊香保温泉の近くということで、横浜から行くにはちょっと遠いことや、常設展施設ということで今ひとつ腰を上げる気になれなかったのだけど、テレビでハラミュージアムアークの紹介を観て行きたくなった。日本の古美術と現代美術を併せて展示する形式で、現代美術と日本画、古美術を区別しないやりかたが面白かった。
面白かったのだけど、そうは言っても伊香保は遠い。東京から高崎まで1時間。そこから渋川は約30分。さらにバスで15分。渋川に着いたのは昼前だけど、バスの乗り換えが合わなくて、駅前にあるチェーンの和食レストランで食事。それで昼過ぎのバスに間に合ったのだから、けっこう考えられたダイアだったのかもしれない。
伊香保温泉行きのバスに乗り、「伊香保グリーン牧場」で下車。そこから徒歩でグリーン牧場脇を回りこんでミュージアムアークへ。
しばらく歩いていくと、まばらに開けた林の向こうに特徴あるとんがり屋根が幾つか。整備された緑地という点では先日の「クレマチスの丘」と似たコンセプトではあるけれど、こちらはそれほど造りこまれてはいない。ゴルフ場のような開放緑地に建屋が配置されている。屋外には大型彫刻作品が配置されてはいるけど、それほど存在感が強くあるようには見えない。ウォーホルのキャンベル缶はどちらかというと愛嬌か。
常設展「この世界には色がある」は面白い構成をしていて飽きない。会場はA~Cの3つのギャラリーに分かれていて、Aギャラリーの中心にはマックス・ストリッフャーの「眠れる巨人」。ホワイトの半透明ビニールで作られた大きな胎児が室内の中央に浮かぶ。周囲の壁には彩色を抑えた、シンプルな色彩の描線が踊るトム・ウェッセルマンのシルクスクリーン作品が数点、ポイントを押さえるように配置される。
ギャラリーBはウォーホルやリキテンシュタインなどの60年代ポップアート。ギャラリーCはより近年の作品。Cの奥には草間彌生の黄色に黒の水玉で埋められた空間が控える。作品はミラールーム。鏡張りの空間に草間のトーテム的作品であるかぼちゃが据えられ、反射して無限の空間に広がる。シルクスクリーンや油絵、アクリル絵の具のカラーに目を愉しませて外に出てみれば榛名山麓から続いて広がる緑が目に入る。
暑さにへきえきしながら美術館のギャラリーとは反対側のウィングへ。そちらには海観庵という一室があり、そちらが以前テレビで観たギャラリーになっている。山の上にあって「観海庵」というのも洒落ている。薄暗い通路の中で最初に出迎えるのがカプーアの「無」を覗き込むような作品。
中に展示されているのは日本画・古美術が中心ではあるけれど、それらと組み合わせて最近の現代美術(っていうのもヘンな言い回しですが)作品が配置される。狩野派の掛け軸と併せて名和晃平やナム・ジュン・パイク、イサム・ノグチの作品が配置される。美しい漆器の重箱が置かれた飾り棚のある間には青木野枝。さすがに古美術作品はマテリアルそのものが古びているので、真新しい作品と並べるとそこに違和感が何もないわけではない。ただ、古い作品と新しい作品が併置されることで、古いものが新しい作品のような、新しい作品が古い作品のような空気を帯び、そのことが新鮮な印象を覚えることにつながっているようだ。