■森美術館ではじまった「ディン・Q・レ 明日への記憶」展。ディン・Q・レ作品はかれこれ5年くらい前に福岡のアジ美で『南シナ海ピシュクン』を観たのが初めで、去年横浜トリエンナーレでも観ています。「ベトナム戦争」という米国のトラウマをストレートに扱っていながら日本人には刺さらないところが観やすいのかもしれません。
自国を舞台にして展開されたベトナム戦争の記憶は生々しく残っていて、その整理が未だついていないようです。その一方で米国ではハリウッド映画を通して、一種のファンタジー的な異世界のような形で距離の置き方がリセットされていたように思います。展示されている作品の中に、「地獄の黙示録」と「プラトゥーン」の類似するシーンを並置してみせるものがあるのですが、その中では敵であるベトナム人は人物として登場することはなく、どちらも主人公の一人語りの内省的な世界へと入り込んでいってしまいます。展覧会のキャプションでは「通過儀礼」という言葉が使われていましたが、どちらかというと「自分探し」という言葉が似合っているように思います。
圧巻はベトナム戦争を描いた画家についてのインタビュービデオで、共産党の方針に従って描いた主流派の画家と、主流から距離を置いた反主流派の画家を対比させる。日本でも第二次大戦中の「戦争画家」については戦後議論のまとになっている。違うのは寄り添った体制が戦争に勝ったのか、負けたのかであり、その点ではベトナムの従軍画家は肯定的に扱われているようでした。戦争というものに対する戦後の評価というのはやはり勝ち負けで左右される部分が大きいのだと思わさせられます。
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