■去年の夏に開催された瀬戸内国際芸術祭の時に豊島には真っ先に訪れていて、それからだいたい半年たっている。もう一度豊島に行きました。目当ては内藤礼の常設展示がある、豊島美術館。先日行った奈義町現代美術館と同様、作家に現地で作ってもらった常設作品を収納することが目的となっている美術館。ただ、奈義はギャラリーや図書館が併設されているのに対して、豊島美術館は常設作品のみ。建物の設計をSANAAが担当したことも話題になった。
豊島へは宇野港から。岡山駅から急行バスで宇野港へ。宇野港からフェリーで唐櫃(からと)港まで1時間。夏に来たときは猛暑でとても歩き回る気にはならなかったのですが、さすがに冬ともなれば猛暑の頃が嘘のようで、普通に寒い。港を出て曲がりくねる山道を15分ほど歩くと豊島美術館に。冬枯れの段々畑の間にコンクリで作られたバンカーのような建物が見えてきて、よくよく確認してみると「豊島美術館」の文字。景観に溶け込んでいるというか、うっかり通り過ぎるところでした。
エントランスロビーでチケットを購入し、常緑樹が生い茂る小高い丘を巻く遊歩道を歩いて本館へ。うすく平たいコンクリのドームで、2つの大きな丸い窓が開いている。内部空間は柱のない広大な単一空間で、照明はないが常時開放された窓のために閉塞感のようなものは感じない。
床は撥水性のコンクリートが打たれていて、あちこちに穿たれた小さな穴から水が湧いている。床の上で水は玉となり、床面がもつ起伏に従い移動していく。水は排水孔のないく床面の窪みへと集まっていく。強い撥水性の床上を移動する水は透明な粘菌が移動していく様にも見える。
床面のあちこちで発生した、水の塊は意志を持つかのように、より大きな水の溜まりへと集まり、成長していく。館内には水音が絶えず聞こえる。開放された窓からは外部の自然音。館内は外部の島空間とは全く異質な景観を持つが、外界から隔絶されているわけではない。〈母型〉〈恩寵〉といった、過去の内藤作品に使われてきたオブジェが組み合わされ、島の自然の気配だけが満ちている。
島の表層的な景色を取り払った〈自然〉が館内にある、そんな印象を持った。SANAAの設計したコンクリのドーム空間は島の自然のエッセンスをだけを見せるフィルタのようなもので、館内の異空間ではそのエッセンスだけを見ている。
機会があれば夏にもう一度来てみたい。遊歩道は決して無駄な行程ではなく、その小道から見える景色も併せて作品の一部となっている。島の景色が四季と共にうつろえば、ドーム内の印象もまた変わるはずだ。とりあえず冬季はもういい。
床面を保護するため、靴を脱がなければならないのだけど、冬場は床が冷たいし。