■新宿にある損保ジャパン東郷青児美術館にはゴッホの「ひまわり」がある。かれこれ20年以上前に当時の安田海上火災がかなりの高額で購入した作品で当時のバブル経済を象徴するようなできごととして記憶している。正直、そんなことがあったことも忘れかけていたのだけど、今回初めて損保ジャパン東郷青児美術館に足をはこんで、「ひまわり」がここにあることを知った。ひまわりを観に行ったわけではなかったのですが。
観に行ったのは「タグチ・アートコレクション GLOBAL NEW ART」で、田口弘氏のコレクション展覧会となる。現代アートの入り口となるよう配慮されたようで、挙がっている名前はリキテンシュタイン、ウォーホル、キース・ヘリング、デミアン・ハースト、ジュリアン・オピー、大岩オスカール、日本作家では村上隆、奈良美智、加藤美佳、杉本博司、草間彌生、丸山直文、天明屋尚、加藤泉、名和晃平、等々。
入門的な展覧会というのは間違いなくて、網羅的ではないにしても有名どころは一通り並んでいる感じ。ドローイング主体で、彫像はキース・ヘリングと奈良美智のそれぞれ1点ずつ。メディアアート無し。写真は杉本博司の一点。抽象画は少なく、具象画で、オブジェクトとして何が描かれているか解りやすく、直裁的に受け止めることができる作品が多い。気になったのは大岩オスカールが日本人作家に分類されていたことで、本来はブラジル作家のはず。
ただ、網羅的に並んではいたけれど、単に名前をそろえるためにとりあえず展示されたような作品があったような印象もありました。この人の作品なら、せめて某所で展示されていた某作品くらいのものでないと…とか。そこは個人コレクションを覗いているという、野次馬的な感想なのかもしれません。自分なら、別の作品を選ぶよ、という。そうした感想を持つのはキュレーターがあちこちの美術館やコレクターから借り集める企画展では持ちにくいわけです。
雰囲気としては日本人作家については高橋コレクションライクな選択がされているような気がしました。自分ならやなぎみわ、塩田千春、志賀理江子を加えるなあとか思うのですが、塩田の作品はインスタレーションで場所を取りますから難しいでしょうね。デミアン・ハーストもぶった切られた動物ではなくて、シンプルなドローイングであまり過激じゃない。
面白かったのはヴィック・ムニーズという人のドローイングで、コラージュのようなイメージの断片を組み合わせて肖像画を構成している一連の作品でした。ロングで見える画像とディテールが全く別のコンテキストを持っているという絵で、そうした手法そのものは確かに珍しくはありません(古くはジュゼッペ・アルチンボルドとか)。ただ、一つの画像が複数のコンテキストを併せ持っているという構造が、そこに描かれている有名人(たとえばモンローとか)をイメージでしか知らないという事実を象徴的に示しているように思います。知っているようなつもりになっていることは意外と多いのだと、その絵画は示しているように思えたのです。
「現代アート入門」というのは間違いなく、反面、なんとなく厚みがないような感じもなくはないのですが、その厚みはこれから行われる他の展覧会で補ってくださいということでしょう。都内であれば、森美術館もあるし、都現美もある。大手画商のギャラリーだって集中している。そこにあることが解れば、いくらでも観ることができるのですから。