■東京ステーションギャラリーはその場所柄、キャッチーというか、解りやすいというか、メジャータイトルしか扱わないかと思っていたのですが、そんなこともなく、新年を迎えてブリティッシュ・カウンシル・コレクションの企画展が始まりました。「プライベート・ユートピア ここだけの場所」 東京ステーションギャラリーを皮切りに伊丹市立美術館、高知県立美術館、岡山県立美術館を巡回します。
ブリティッシュ・カウンシルの名前は過去国内の企画展で幾度となく見ているはずですが、正直あんまり覚えていません。
今回の展示は東京ステーションギャラリーの展示内容を観た限りでは、ほんの触りのような印象もあります。大型の美術館では展示室1つに収まってしまいそうで、それが今回の巡回先で大型の美術館が入っていない理由かもしれません。ただ、「壁のない美術館」を謳う同コレクションからすれば、身軽に小さな箱のある場所で展示することこそ、あるべき姿なのだろうとも思います。
箱は小さいですが、展示作品の作家数は28名、作品数は120ほどで、個々の作家をフィーチャーせずに同コレクションの幅広い収集作品の一端を知ることができます。
作家名の中にはマーティン・クリード、ライアン・ガンダー、ジム・ランビー、サイモン・スターリング、ウッド&ハリソンなど、ターナー賞受賞作家や、国内で個展が開催されたこともある作家など、自分でも知っている名前が多く、そしてもちろん、まだ知らない作家の名前も多くありました。
個人的に印象に残ったのはライアン・ガンダー、ジェレミー・デラー、ウッド&ハリソン、ローラ・ランカスターなど。
ライアン・ガンダーの『四代目エガートン男爵の16枚の羽毛がついた極楽鳥』は珍しい極楽鳥のが捕獲された、という体で紹介されている剥製ですが、遠目には嘲笑っているような顔にも見えます。作家自身は作品について説明をしていないそうで、観る側には遠目の嘲笑っているような顔と、近くで観たときの極楽鳥、そして嘘っぽい来歴となにか「箔をつける」ことについての皮肉のようなものが感じられます。
ローラ・ランカスターの平面絵画作品は古いアノニマスな絵葉書の画像を油彩でややアブストラクトに再描画したものですが、観る側は作家がその場所を観て描いているかのように感じてしまう。オリジナルの画像は半ば捨てられているイメージですが、それが作家の手によって再び生きたイメージとしてよみがえっているようにも思えますし、その一方でまたライアン・ガンダーの極楽鳥のように作品が制作されたプロセスに対する思い込みの裏を突かれているようにも思えます。
ジェレミー・デラーやウッド&ハリソンは楽しい作品を提示してくれています。ジェレミー・デラーの『アシッド・ブラス』はブラスバンドが最近のハウスミュージック(自体はすでに古びかけているというのはともかく)を演奏する、というミスマッチを試みたプロジェクトで、その成果はYouTubeでも聴くことができます。吹奏楽団が最近の映画音楽やポップス、ジャズのスタンダードナンバーを演奏するというのは珍しくはないですが、アシッド・ハウスを演奏するという振り幅の大きさが面白いところです。会場ではBBCの10分程度の特集をループ再生しているだけなのですが、十分に面白さは伝わってきます。音楽としての面白さもあって、いわゆるテクノに比べるとなんかもっさりしている感じがするのですが、これは金管楽器の応答時間が長いので、アタックの立ち上がりが遅いからなんですね。BBCの特集はクラブハウスでブラスバンドが演奏するというミスマッチな状況で観客の興奮を伝えたところがクライマックスになります。アシッド・テクノの演奏というアイディアを受け入れたブラスバンド(ウィリアム・フェアリィ)もその演奏を楽しめる観客も、双方音楽に対する懐が深いということも伝わってきます。スタイルではないんですね。
ウッド&ハリソンは最近はETVのでもクリップが使われていたりしますが、ユーモラスなビデオ作品が和ませてくれます。ただ、「3Dバケット」については最後にオチが欲しかったようにも思いました。ベタですけどね。