■なんかチープなタイトルだなあという感じがあり、そして今更フィリップ・K・ディックの未翻訳長編というと、ディックがその昔書き飛ばしていた時期の落穂的な作品なのではないかと見当がつく。そして、それは確かにその通りだったのだけど、それほど悪いわけでもなくて、それなりに。でも「ディックの作品」と聞いて思い浮かぶ作品とはまた違うのも確かなことで、なんとなく、名のある人が分厚い「ノベル」で書き飛ばした作品みたい。というか、そのまんまなのか。
タイムトラベルもので、プロットは丁寧に組んであって、しかもちょっとしたどんでんがえしもあり、ずいぶん手馴れた仕上がり。未来社会の構造とか、社会的肩書きとかも、なんとなくオープンソース的組み合わせのような既視感。お約束の連続と思えば別になんということもないんですが、「実在しそうな」という意味でのリアリティはなし。舞台の書割りの裏にある補強材が透けて見えているような感じ。
ただ、それでも退屈さがないのは、活劇や強引な場面転換が連続しているからでしょう。
しかし、退屈さがないとはいっても、ディック作品的な面白さ、現実崩壊感とか、倫理的葛藤とか、宗教的な救済観とか、そういった「重さ」も無いので、手放しで面白いとも言いがたく。ディックでなければ、変なためらいもなく、「さすがに古臭いけど、それなりに楽しめる作品」で済ませられたかもしれません。
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