■DVDとBDのバンドル版で。美人を見せることが軸になっているおねえちゃん映画だけど、アクションシーンは普通に面白かった。話としてどうだったかというと、そちらは微妙。面白いなあと思ったのは、謎を引っ張りすぎてわけわかんないことになっている点かな。初回はどうにも落ち着かなかったのだけど、2回目観たときは安心して観れた。そういう点で作話的に問題を抱えていると思うけど、割り切ってしまえばこれはこれで。
読者・観客を長時間つき合わさせる理由というものが物語には必要で、それは明かされない謎であったり、緊張が解けることへの期待であったり、魅力的なキャラクターと過ごすことであったりする。『ソルト』の場合は主役のアンジェリーナ・ジョリーがまずビジュアルで引っ張っているので、そこが1つのポイントになっている。加えて主人公の正体が不明という「謎」があり、同時にそれが「緊張」を生んでいたのだけど、主人公を謎にしたのはさすがにやりすぎだろうと思った。
主人公を謎にしてしまうと、観ている側は主人公と視点を同一に保てなくなる。移入できなくなるのでどうしても距離を置いて観続けることになる。主要登場人物を謎めいた人物に設定する場合、読者・観客の視点代わりとなる、補助的な人物を置くことが多いけれど、『ソルト』ではそれが行われず、観客はただひたすらソルトの行動を追い続けるだけになり、居心地の悪さを味わう。
ソルトの立ち居地が明確にされるのが中盤の、例えば転回点あたりであれば、それはストーリー構成のひとつの区切りとして有効だったかもしれない。しかし、彼女の立ち居地が明確になる(一応それは観ていて推測された通りではあったのだけど)のは終盤もいいところで、結局観ている側の視点は落ち着かないまま最後まで付き合わされることになった。
ただ一回オチが解った後で、もう一度見返すと、ごく普通の復讐譚として面白いのだった。確かにはじめからネタを明かして話作りをしていたら、かなりありきたりな話になってしまったかもしれないし、ソルトの内面を説明することに時間が取られて退屈になっていたかもしれない。SFではわざと説明せずに話をすすめる技巧があるけれど、それと似ていなくもない。ただ、それならそれで主人公以外に何か観客の視点を載せされる人物を用意してほしかったように思う。
ただ、復讐譚というのは、ことを終えたとしても主人公に救いが用意されるわけではないので、そこが少し哀しい。そこまで描けていれば良かったのかもしれないけれど、ああいう話の作り方をされては主人公の内面についてはなおざりにせざるを得ず、やはり作り方がまずかったのだろう。アンジェリーナ・ジョリーがビジュアルでけっこう見せてくれるおねえちゃん映画だったので、そのあたりのまずさが残念な感じでした。一度解ってしまえば気にはならないので、そういう点では劇場というよりはホームビデオに向いている作品と言えるかもしれません。