■あなたはあなたの思い出がその景色の一部となった建物や街を知っているだろうか。もし、知っているのであれば、それは幸いである。
初台の東京オペラシティーアートギャラリーで今年('09)3/22まで開催されている「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」はアートギャラリーとしてはちょっと変わった展覧会だ。自分は工科大学に在学していたのだけど、そこには建築科があり、学祭の時には建築科の研究室が建物のモデルや図面を展示していたのだけど、展示内容はそれに近い。というか、展示物は設計で用いたモデルや図面といった資料そのままなので、建築科の研究発表そのままという印象はあった。ただ、ディーナー&ディーナーはスイスのバーゼルに拠点を持つ、由緒正しい建築設計事務所であり、展示されている「作品」もそれはコンペ用の素材であったり、実際に着手されているプロジェクトの資料であったりする。つまり、現場で使われている「本物」というわけだ。
展覧会場の第1室に入ると、そこはディーナー&ディーナーの各プロジェクトで設計検討に用いられたアーバンモデルと付近の地図が幾つも展示されている。正直見方に困るのだけど、木で作られたアーバンモデルと並べられた地図を見比べているうち、だんだんとディーナー&ディーナーの設計コンセプトの底にあるものが見えてくる。
アーバンモデル、街並みの模型を見ていても、一見するとどれが設計対象の建物なのかは解らない。わずかに色分けされた地図だけがプロジェクト対象となった建屋を見分ける手がかりだ。
既存の街並みの中で、どれが新規建築の建物なのか解りにくい、というのがディーナー&ディーナー建築事務所の手によるプロジェクトの特徴なのだ、というのが見えてくる。そしてそれが、日本の、モニュメントのような外装を持つビルが林立する街並みの造り方とは全く違うということもすぐにわかる。
ディーナー&ディーナーの設計は、既存の街並みがもつ風景を大事にする。例えば日本のマンションビルダーが法令が許す限り大きく設計して、周囲の街並みから浮いた建物を作るのとは対照的で、都市景観の時間的な連続性を保ちつつ、その街を構成する要素をリニューアルしていく。そういう方法論が見えてくる。
たまたま、というか、TOCAGのメルマガではトークショーの語りをmp3にしたファイルへのリンクが紹介されていて、それを聴くとやはり都市景観に溶け込む、設計したものがどれか解らないのがベスト、とのくだりがあって、納得する。
欧州の街並みというと想像されるタウンスケープというのがありますが、あれはほっといて出来上がるわけではなくて、意識して保持している景観だったというわけです。まあ、日本のなんだか一見するとどこなんだか解らない景観を思えば納得するわけですが。