■チャイナ・ミエヴィルの長編。それぞれことなる歴史と文化、言語を持つ2つの都市が1つの地域にモザイク状に存在する街を舞台にした殺人事件を追う刑事。迷宮のような街で事件の真相を追う刑事は、真相を求めてその中心へと近づいていく。
舞台となっている都市は東欧のどこか古い都市。正確には1つの地域に2つの行政組織が全く交わることなく同居している。それもかつての東西ベルリンのように2つの市域に分割しているわけではなく、互いのエリアは物理的には分離されずにただ制度として互いが「見えないことになっている」が故に成立している。この奇妙な状態を維持するために〈ブリーチ〉なる組織が存在している。〈ブリーチ〉は互いの都市の住人がもう片方の都市が存在していることを意識した行動を取ることを規制している。
双方の都市住人の視線を制御することで見えない領域が生まれ、組み合わされるがこの双方の市域はキレイに排他関係にないのがミソで、〈クロスハッチング〉された、つまり双方の市域が被っている領域があったり、逆に被っていないと思われる領域の存在が推測される。
そんな街でおきた殺人事件を追う刑事は最初は自分の庭で、そしてもう一方の都市へ渡り、事件の真相を追う。その中心にあると思われるものがその双方から見えていない領域だ。その領域は都市伝説として片付けられているが、その可能性は否定できない。しかし存在するという明確な証拠もまた彼らにはつかめない。
物語はハードボイルド的な〈デックストーリー〉として構築されている。それだけで十分面白いのだけど、ひっかかるのはやはり〈ブリーチ〉を含めた体制が不自然なことだろう。物語として与えられた体制を所与のものとして、作中の都市住人と同様に当たり前のものとして受け入れれば不思議はないが、その手間暇のかかる体制を維持しようとする動機が明らかにはならないので違和感は残る。それが読み終えたあとももやもやと残っている。