■そういう感じでバスに揺られて南伊勢町へ。バスは10分も走れば市街地を抜けて、厚木郊外に似た宅地はあっというまに愛川の山中という風情になり、そしていつか走った足柄の山の中のような道に。トンネルを幾つか抜けて一瞬稜線の向こうに海が見えたと思ったら後は下る一方。降り切ったところにある南勢野添というバス停で降りると、強い日差しに暑い空気。天気予報じゃ曇りのはずなんだけどなあ。
前もって伊勢現代美術館のサイトで地図は確認していたのだけど、実際に歩いていくとだんだん心配になっていく。要所要所に道案内は出ているのだけど、その看板がこう、あまりにもサイトスペシフィックな雰囲気で、本当にこっちでいいんかいなと。
バス停から距離にして1キロ、と看板にはあったから、歩いてもせいぜい15分くらいのはずなのだけどあたりの景色はどんどん緑の色濃くなる。横須賀に「カスヤの森」というアットホームな感じの現代美術館があり、あそこも住宅地の真ん中にあって建物も普通の民家とあまり区別がつかず最初は戸惑った。そのことを思い出した。たぶん、民家を改装しているのではないかなと。でも、普通の道端でフォトジェニックな景色というのはさすが南紀ということか。
さらに歩いていくと、不動産屋の看板と併さった美術館の看板が。「パールハーバー分譲地」とあって、何かの間違いではないかと一瞬思う。しかし、考えてみればここからそう遠くない鳥羽はその昔真珠を求めてガマクジラが汐を吹いた所でもある。‥‥しかしなあ。
ともあれ、その看板に従って坂を下りていくと、民家の中に混じって大きな倉庫様の建物が。レストアガレージと言われても信じたかもしれない。でも外壁にはART MUSEUMとあって、間違いなくここが目的の美術館なのだろう。ちょっと遠いかな。やはり。
行ったその日は稲垣 考二展と、島なぎさ展の2個展。稲垣氏の作品は倉庫の大空間を利用した大きな絵画で、人体像をとにかくびっしりと描きこんだもの。ただ近寄ってよく見ると、その天井まで届く大きなキャンバスに描かれた横顔の表面を小さな人が大勢よじ登っていたり、ピクニックしていたりして、ちょっと遊んでいるような。会場の奥に過去の習作などを収めたファイルが置いてあってそれをぱらぱらとめくってみると、裸婦や人物の素描が幾枚も出てくる。『仕事場』を眺めていると、そうやって過去からずっと描き続けてきたモチーフが暴走して意識下から表に出てきてしまったように見えてきました。絵の中には良く見ると脳みそすすっている場面があったり、わりと陰惨なものもあるのですが、あまりどろどろした雰囲気はなくて、どちらかといえば乾いてスラップスティックな感じ。
もう一つの島なぎさ展は、若手作家のインキュベーション的な企画。こちらは青と白を基調に波を思わせる模様で塗られた2枚の紙が上下に重なろうとするかのような形で展示室の中空に吊るされている。これが五ヶ所湾を意識した作品だろうということはさすがに解るところで、見ていて清清しくなるインスタレーションでした。1点だけというのはちょっと寂しかったですが。