■横浜美術館はシュルレアリズム作品を意識的に蒐集している美術館。マックス・エルンスト展というのはその意味で解りやすい企画展。若い頃に制作したコラージュはダダイズムの中にあったことがうかがい知れるのだけど、その頃に使われたイコン的モチーフは終生繰り返し使われている。コラージュやキュビズム、抽象絵画へとスタイルが変遷していく中でそれらモチーフも繰り返し表れる。若い頃の作品に感じた緊張感は、後年の作品では薄くなり、楽しげな雰囲気が強くなっていく。
彫像作品もあり、こちらも面白かった。「かわいらしい」印象があるのだけど、「王妃とチェスをする王」などは悪戯っぽい造形もされていて、楽しげな雰囲気。シュルレアリズムを代表する画家、とされているけれど、その作品は難しさよりは楽しさが前面に出てきていて和む。「嘘八百」などは明るい色のグラデーションが背景の基調になっていて、その中にシンプルな幾何学的イコンがリズミカルに配置されている。
今回はBS日テレ「ぶらぶら美術館」で事前の予習もできたところで観に行けたのも良かったかもしれない。近代絵画展だとお勉強モードになってしまうところがあるのだけど、今回はある程度お勉強ができたところで観ることができたので。
特に鳥のモチーフについて事前に知ることができたのは、観る上での手助けになりました。自由や平和の象徴として使われた鳥のモチーフは最後まで彼の作品に登場してきました。第2次世界大戦の中でナチス・ドイツからアメリカへ亡命した経緯などを併せて思うと、そのモチーフが象徴するものが単なる観念的なものではなく、彼自身の実体験から生まれてきたものということも察することができます。
シュルレアリズムというと、ダリやマグリットなどの何か構えて謎解きを迫られているような作品が思い浮かぶのですが、エルンストの作品は謎というよりは楽しさが伝わってきて、その感覚は新鮮でした。