■すずが異母姉たちの下に来て1年。さまざまな軋みを孕み進行していた彼女らの周囲は氷が一旦溶けて、新しい水の中へ入ろうとしている。それにしても三女・千佳の影の薄いことよ。『思い出蛍』『誰かと見上げる花火』『陽のあたる坂道』『止まった時計』の4編を収録。
にしても、オビにある「未来の古典を約束された」ってそこまで言ってしまうのはどうよ。
連作短編集という体裁なので、1巻がどう、2巻がどうという書き方はあまり適切ではないと思うけど、それでも初期の短編については、出来事がずいぶんハデ目で、そんなにてんこ盛りな日常ってあるのかなあと感じていたのですが、そのあたりは大分落ち着いて、恋バナやらなんやら、だんだんとありそうな日常に落ち着いてきたみたいです。
4人姉妹一人一人(千佳については良く解らないが)に状況が用意されていて、おのおのの周囲で氷が解けたり動いたり。すずの大きな状況は一区切りがついて、次の物語に。2巻収録の『真昼の月』で扱われた幸の状況も一段落ついたみたいだ。
それにしても懐かしいなと思うのは、舞台になっている鎌倉のロケーションがちゃんとしていて、あのあたりを知っていれば、彼女たちがだいたいどういう移動をしているのかなんとなく見当がつくからだ。
ロケーションのこだわり具合が良く解るのは(別にこの巻に限らないのだけど)『陽のあたる坂道』で、この坂道は極楽寺へ抜ける切通しを指している。饅頭を買い食いするシーンが描かれているけれど、その饅頭屋は実在するし(グーグルストリートビューで確認できる)、さりげなく挿入された路傍の景色(地蔵を収めた小屋など)も実在する。
極楽寺へ抜ける坂道はそれほどきつくは無いのだけど、だらだらと長いのだよね。
ただ、読んでいて不安になったのは、この連作短編はどういう形で決着が着くのだろうかということで、うすらぼんやりと四姉妹の落ち着き先が見えてしまっている今の時点では、いつ終わってもあまり違和感はないだろうという気がしている。
言葉は悪いが、四人がそれぞれ「片付いて」しまった場合、今彼女らが暮らしている家は住人を失うことにもなりかねないわけで、仮にそういう終わり方をしてしまうとすると寂しい。
ただ、いつまでもあの家の形のままでいられるはずはないわけで、ただ、それでも、あと少し、もう少し長く彼女らの物語につき合わさせて欲しいと願う。