■東京オペラシティーではじまった「さわひらき Under the Box, Beyond the Bounds」は過去に観たものも半分ほどあったけれど、冒頭と終わりは新作。Under the Boxはインスタレーション作品。Beyond the Boundsは半球状のスクリーンに投影されるビデオ作品。リビング空間を飛び交う旅客機からはじまり、時間の檻、星霜と次第に作品のスケールが一つの宇宙へと広がっていく。静かで詩的なトーンはそのまま。
一度みてはいるものの「Lineament」や「Did I ?」は、ストーリーを持っているわけではなく、何か解釈する手がかりを与えてくれるものでもないのだけど、ただその静かな雰囲気だけで目を離せなくなる。「Lineament」は記憶喪失をテーマにしている。記憶を失うことで昨日と今日を区別することができなくなり、線形に続いていた時間は円環となる。
「Beyond the Bounds」は天文台の観測業務を背景に、半円状のスクリーンの下に入り、大きく変遷する夜空を見上げる作品。「Lineament」が時間的な広がりを持つ作品なら、こちらは空間的な広がりを見せる。見慣れた夜空が幻想的な宇宙へと変わり、再び元の夜空へと還っていく。そして会場の出口に待っているのは「Envelope」。鏡を使い実像と虚像の区別が難しい中で、さらにポスプロで「実像」すらあいまいになっていく。実像から離れる虚像、と見て取ればそれは自己の中にある二重性・二面性を表現しているのかもしれない。作品終盤にある万華鏡のようなカットはビビッドで美しい。鏡像をテーマにしているためか、テロップが鏡文字になっていて、会場後方にある鏡を通さないと読み取ることができないことに終わり間際で気が付いた。もともと英文のテロップで短い時間しか表示されないから、ほかの観客はあまり気にされていないようだったけど、鏡を通すと正象として観ることができる。スクリーンは鏡の中の世界という作りになっているわけだ。