■中古船舶が行き着く先に東南アジアの船舶解体場がある。タイのチッタゴンなどにある解体場などで、ここで資源回収を目的とした解体場がある。と、言えば聞こえはいいが、近代的なドッグヤードなどはなく、浅瀬の砂浜に座礁させた大型船を人海戦術で解体(ビーチング)していく。パオロ・バチカルビの『シップブレーカー』はそうしたビーチング稼業で生活をたてる少年の物語。
もっとも舞台になるのはチッタゴンではなく、化石燃料枯渇後に経済的な大変動を迎えたアメリカ。気候変動も激しく、ニューオーリンズ周辺から100マイル程北の海岸沿いの村で船舶解体に関わっていた。大人たちは抑圧的で、中でも父親は最悪だ。そんななか、暴風雨が村を襲った翌朝、高級大型船舶が浜に座礁しているのを見つける。最初は資源の山を発見したつもりの主人公だが、船内で生存者の美少女、リタを救助したことが彼の運命を変える。
主人公のネイラーは上昇志向があり、目の前のチャンスには乗っていこうとする。その点で言えば、これは成長物語ではない。ネイラーは別に成長していくわけではなく、自らの運命を切り拓こうとする。そのための障害が、彼の船舶解体業者というポジションであり、父親の存在であり、彼がそれらの障害を乗り越えていく過程が描かれる。
物語としては貧しいが知恵だけはある少年がお姫様を射止める話だし、「ビーチング」現場も現実にある話で、既視感は否めない。前作の『ねじまき少女』に比べるとずいぶん素朴なお話という感じはする。物語はネイラーが抱えていた当初の問題が解消され、前途洋洋とした未来が広がる、といったところで終わる。なんとなく物足りない感じが残るのは、エピソードとしてはネイラーが新しい就職先を手に入れました、といったところで終わっていて、リタのネイラーに対する視線は宙に浮いたままになってしまっているからだろう。
このまま続編を書いてしまうと、ミリタリSF出世モノになってしまうから、いい打ち切りどころだと思うのだけど、もうちょっと色を見せて欲しかったとも思う。