■アニメっぽい絵は思い浮かぶのだけど、大きな絵の一部を切り取っている雰囲気が十分感じられて、単純に娯楽小説として楽しめるということ以上に、もっと読んでみたいという気にさせられる。前作(『機龍警察』)が攻殻機動隊とパトレイバーを足したようなところがあったのだけど、本作はうって変わって時代小説風。OVAをノベライズしたような雰囲気があって、OVAを観たいなと思うのだけど、もちろんノベライズではないわけで、たぶんアニメ脚本家としてキャリアを積んでいた間の引き出しがたくさんおありなのでしょう。
プロットはシンプルで、国破れて国を落ちた若き嫡男と姫を安全な国まで送り届けることになり、その間に様々な技量を持つ追っ手と戦う。かかる追っ手の人数は明らかになっており、章が進み敵が倒れされていく度にエンディングへと向かっていることが判る。どんでん返しは2,3あるけれど、それすらもかなり定石めいていてその意味で安心して読み進めることができる。
ただ、世界そのものの説明はほとんどなされないため、もう少し大きな枠としての物語を期待してしまうと、どうしても欲求不満は残ってしまう。例えば、無限に展開する平行宇宙を支配下に収めている(支配組織が機能するのかという疑問はあるが)という『無限王朝』の存在は、その名前のみが語られるだけで具体的な姿はその片鱗も登場しない。
また、主人公の零牙が属する集団の仲間達の「真の世界での記憶」が、彼らの世界の由来についての興味をかきたてるものの、その詳細についてはやはり明らかにはされない。ただ、明らかにされないだけに読み手には想像する余地が大きく残り、その余地が作中世界の奥行きとなっている。
細かいところでは「機」忍というからには何がしかのテクノロジーが使われているのだと思うけど、そのテクノロジーを支えるバックボーンがあるようには見えないのがやはり難しいところ。アニメ的と言ってしまえばそれまでかもしれない。描かれる舞台の懐はとても深く感じられるものの、かりそめのような儚い世界のようにも感じられる。
その物語の構造そのものの危うさというのは零牙達の行動原理についても言えて、妥当『無限王朝』を謳うのは良しとしても、その具体的な対象が描かれないままなので、当面の敵を倒してしまうと途端に彼らの存在理由が揺らいでしまう。ただ、読んでいる間はあまりそのあたりの細かいところは気にならない(読んでいる自分も棚上げしてしまうようになっている)ので、別に構わないのかもしれない。
何にしても、様々な設定が言及されたまま放って置かれている感はあるので、続編(か、同じ世界を舞台にした作品)は書きやすいでしょう。類型になってしまうかもしれませんが、そうした作品も読んでみたいと感じています。