■吉田秋生による連作短編「海街Diary」を是枝監督が映画化した同題の映画。是枝監督はこの作品の前に「そして父になる」を発表していて、「家族」をテーマにしている点では共通している。細かいエピソードが同時並行していくスタイルで個々のエピソードは始まりと終わりが同期していないので映画のように一定の尺の中で終わらせるのは難しそうだと思っていました。
4姉妹の長女、幸は自分の両親に対して怒りの感情を持っているのですが、その実自分自身が親と同じことをしていることを自覚していない。その点は原作でも明確に描かれることはないのですが、映画では幸が家族に対して持つ気持ちに一区切りをつけるところを一つもメルクマールとしています。その過程は異母妹である四女のすずが香田家に収まっていく過程と表裏を成していて、姉の家族を壊した女性の娘、という立場についてのわだかまりを解消するには、幸が自分自身の行為を通して和解していく必要があったのでした。
原作では第一話ですずが山形の山の上で叫ぶ印象的なシーンがあるのですが、映画ではそこがさらっと流されています。そのシーンはすずのキャラクターを特徴づける重要な箇所で、そこが抑圧されるとすずの印象はずいぶん違ったものになっています。ただ、そのシーンは形を変え、映画として話を収めていくために利用されていて感心したのでした。
複数のエピソードが平行するために複雑な構造を持つ原作ですが、映画では幸とすずの関係に絞られシンプルな構成になっています。ただ、それでも似たような日常のシーケンスが繰り返すため、後半は少し落ち着かなくなりました。
ただ、終わらないなら終わらないで延々と観ていたくなるのは4姉妹を取り巻く樹木希林や大竹しのぶ、リリー・フランキー、吹雪ジュンの存在で締まっていたからかもしれません。ストーリーの本筋とは関わらないのですが、二女佳乃の上司、坂下係長が「神様がやってくれないなら、人間がやるしかない」(だったような)というセリフが印象に残りました。