■葉山の神奈川県立近代美術館ではじまった回顧展。フライヤーに使われていたビジュアルが静かな佇まいを湛えた彫像でなんとなく船越保武を連想したりしたのですが、別に何か関連があるわけでもなさそうでした。確かに、なんとなく似ているのはフライヤーで使われていた作品(飛葉と振動)くらいで、他はそれほどのこともなく。ただ、穏やかな空気というのは共通しているように感じます。
「距離を振動で測る」という振動尺などは意味不明と言う以外表現のしようもないのですが(「振動」を尺度にするのだとしたらそれは距離とは呼べないから)、単純な造形が面白かったです。「スチームパンク」はゴシックなレトロという感じですが、あれをずっとスッキリさせて枯れた雰囲気に寄せていくと似たような穏やかな雰囲気になるのかなと一部の作品については感じました。
面白かったのは「ランドスケープ」のモチーフの扱いで、初期のころから地形をモチーフにした金属彫像作品が制作されていて、それが菓子缶や化粧缶を使った箱庭のようなミニチュアの世界に向かう一方で、美術館などの庭園デザインなど規模の大きな、ランドアート的なスケールまで幅広く展開されていました。スケールの自在さというのは他にあまり似た方を観た覚えがないように思います。
キャリアの全体を通して使われているモチーフとしては他に「犬」があります。初期の作品では犬は何かに埋め込まれた存在なのですが、後年の作品になると犬は何かに埋め込まれているわけでもなく、ただ、何か不可知の向こうにある存在の象徴のように扱われているようでした。
Copyright (C) 2008-2015 Satosh Saitou. All rights reserved.