■5月のまだ梅雨に入る前に原美術館で「二コラ ビュフ:ポリフィーロの夢」を観に行くことができました。ゴシック洋式で現代的のアメリカンカートゥーンに出てくるようなキャラクタを描くスタイルで、古いスタイルでコンテンポラリーを描くという点では山口晃の現代社会を日本画調で描く作品と通じるものがあるかもしれません。
展示は全体として「ポリフィーロ」という少年が木陰で眠り込んでいる間に観た夢を追体験するという体裁をとっています。その体裁が徹底されていて、今回は美術館の入り口からして作品になっていて、ニコラ ビュフ世界への入り口のようになっています。
ポリフィーロ少年が見る夢はシンプルでヒロイックなものです。パワフルなヒーローになってドラゴンにさらわれたお姫様を救い出す、というプロットそのものは言ってしまえば陳腐です。ポリフィーロ少年が夢の中に観るセルフイメージは現代のトイメーカーがデザインするヒーロー像をゴチック様式にリファインしたような姿で、勇ましいがユーモラスです。
作品を見ていく観客は次第に作品の中に入り込んでいくことが求められます。転回点になる作品では観客自身のモーションキャプチャーによってドラゴンを倒すゲームスタイルをとっています。
最後の部屋では「ポリフィーロの夢」作品世界のビジュアルイメージを展開しているのですが、それを眺めていて思うのは、今も通用する強い物語のスタイルは昔からまったく変わっていないということです。壁一面を使って描かれたゴチック様式のカートゥーンそのものは今ある物語の中に残る古い物語の存在を示しているように思いますし、その絵の中に書き込まれた'Omnia vincit Amor'(愛は全てを征服する)というモチーフは今現在に制作される数多くの物語の中で未だに色あせずに生き残っています。
「ポリフィーロの夢」はあくまでも少年が見た夢という体裁ですが、その夢は人類が昔から夢見てきた物語の祖形と言ってよいものでしょう。その祖形を非常に典型的な形で提示した展示だったと言えるように思います。