■今年に入ってちらほらと海外美術館が所有している浮世絵コレクションが国内を巡回しているのには気付いていた。ボストン美術館のコレクションは昨年8月の神戸市立博物館を皮切りに名古屋、東京、千葉、仙台と巡回する予定で、ハンブルグ美術工芸博物館のコレクションは渋谷の太田記念美術館や福岡市美で展示され、福岡では同時期に福岡市博物館では大北斎展としてジョイントイベントが開催されていた。気付いてみれば見事に浮世絵だらけで、時期的に現美の展示を観終えてしまっていたこともあって福岡まで見にいった。
福岡アジア美術館でコレクション展を観た後に、地下鉄で大濠公園へ。福岡市美術館ではハンブルグ浮世絵コレクション展。写楽、歌麿、北斎、広重、それぞれ名のある絵師の作品がずらりと並ぶ。浮世絵そのものは初見ではないし、そのイメージはそこここで見てきたのでもの珍しさというものはさすがに無いのだけど、数多くならぶとやはり面白い。墨と筆という技術的制約から発生した様式は、幾人もの絵師を経て構図や色の配置が洗練されていく。
題材はあくまでも市井の中にある具象なのだけど、そこに描かれる人物は様式化されていて、あまり写実的ではない。着物や頭髪のデザインで個人を区別できるくらいで、目鼻立ちはどれも同じだし、ポーズもだいたい同じ。いわゆる「立ち絵」だからなのだろうと思う。
一方で芝居の描写、あるいは挿絵などは対照的に描かれる人々のポーズは様々で写実的になる。
福岡市美の展示は常設でも一部この浮世絵を意識していた作品を展示していて、浮世絵の技法が近代以降にも引き継がれていたことを示している。ただ、浮世絵の技法はその直接的な技術とは別に、純粋に視覚デザインとして、その構図や配色の感覚というものは今の広告のイラストや写真を彷彿とさせるものもあり、それと意識せずとも伝えられているものではないかという印象を持ちました。
福岡市美の後は続けて福岡市立博物館の「大北斎展」を観たのですが、なんというか、浮世絵はちょっとお腹一杯です。