■個展ではなく、グループ展であるし、文化庁の在外研修制度によって海外派遣されていたアーティスト達ということで、全体としての印象はなんとなくとりとめがなかったと言っても別に叱られることはないだろう。きっと。遠山香苗の明るくリズムのある抽象画、赤崎みまの繊細で暖かな写真、近藤聡乃の生理的な感触があるアニメーション作品が記憶に残る。
在外研修制度の成果発表という、多分に政治的な意味合いでまとめられた展覧会になるから、どことなく散漫な印象になってしまうのは仕方ないことでしょう。写真、彫刻、絵画、アニメーション作品で、メディアアートやインスタレーションはなく、また傾向としてポップアート的なものもありません。鈴木涼子の作品がポップアート的な形態を持ってはいますが、性的なファンタジーを拒絶する造りをしていて、そのメッセージは明快です。この展示会の中で最も強い社会的メッセージを帯びた作家ということかもしれません。
ただ、そのメッセージそのものは今更という感じがなくもありません。ちょっと間違えるといわゆる「熟女ヌード」的なくくりをされてしまい、違うフレームの中で捉えられそうな気がしなくもありません。作家自身が持つ文脈が解ると誤解はされにくいとは思うのですが。
メッセージ性という点では、メタファーにあふれ、表層的なビジュアルとは別に物語を孕んでいるように見える近藤聡乃のアニメーション「てんとうむしのおとむらい」が静かな余韻を残す。少女性をめぐる寓話のように観たのですが、一度観ただけでの印象ではあまりあてにはならないかもしれません。オレンジ色のボタンが示すものが何であるのか最後までひっかかります。ただ、作家自身どこまで意識的に構成しているのかも、気にはなります。
マーケットという点では、個人的な好みでしかありませんが、近藤香苗の絵画作品、赤碕みまの写真作品が強いように思います。展覧会HPなどのビジュアルに使われている作品だと近藤の作品はなぜか散漫な印象にしかならないのですが、実物はずっと芯のある印象を受けます。画像として縮小されてしまうとチープになってしまうので、実物で観ないと解らない作品だと思います。明るく、リズムのある構成で、観ている側の気持ちが引っ張られるようでした。
近藤の作品が気持ちを上に引っ張るような効果があるとすると、逆に沈静化するのは赤崎みまの組写真でしょう。暗い中でポイントを絞ったライティングを使い、穏やかな絵作りをしています。観ている側に強く迫ってくることは無いのですが、観終えても静かな余韻が残る作品です。被写体を具体的に記録するというより、被写体すらも光のパターンを作るための素材としているようです。