■太宰府天満宮でライダン・ガンダーを見た後、福岡市内へとって返し、天神から地下鉄に乗って大濠公園駅へ。この公園敷地内には福岡市美術館があって、そこの大浦こころ展が目当て。駅から出て郵便局の脇を通り、公園の中を突っ切っていくと市立美術館の建物が見える。地形に伏せているような構造で、あまり大きくは見えないのだけど、中に入るとだいぶ広い。
展示されている作品は、木炭デッサンと水彩画。どれも額装されておらず、直接ホチキスで壁に留められているだけなので驚いた。水彩画は水分をふくんで紙がゆがんだまま展示されている。人物が描かれているが、ディテールは描かれず、柔らかい色合いだけで彩色された背景の中で、彩色されないネガとして表現されている。そこに表現された人物像からは確たる存在を感じることはできず、気配として感じられる。それは幽霊の描かれ方に似ているのかもしれない。
この展示室に入るとき、入れ替わるように子供が出てきたのだけど、その子が「ここにはいたくないよー」と走って出てきたのが可笑しかった。確かに、見ようによっては怖いかもしれない。そこに誰かが描かれてはいるのだけど、それが誰であるのかはわからない。誰かがいるようだという気配だけが伝わってくる。
大浦こころ展は常設展会場と隣接していて、同じチケットそちらも観ることができる。常設は過去にも見ていて、幾つか作品が入れ替わっていた。ただ、やはり印象に残るのはやなぎみわの「アクアジェンヌ・イン・パラダイスII」。つい先日も原美でやなぎみわの作品(「砂女」)を目にしていて、最近遭遇率高い。「アクアジェンヌ…」は欲望の視線によって類型化してしまったデパートガールをモチーフにした作品。ジェンダー論の文脈にのせてみればかなり直裁な表現ではあるけれど、「デパガ」というキーワードも百貨店業界そのものが地盤沈下している現在では今やあまり響くことはなく、失われたバブル期への追悼のようにも見えてくる。