■原美術館で始まったサイ・トゥオンブリーの回顧展。名前はあちこちで見た記憶はあったのですが、まとまった個展というのはなかったそうです。ざっくり言ってしまうとラクガキみたいなんですが、子供のラクガキと比較にならないのは色彩や図像のバランスが落ち着いて見える点でしょう。中には本当に小学生の名前がキャプションにあっても気づかないだろうなあというものもあったのですが、制作年を確かめてみるとかなり初期の作品で、なるほどなと思いました。乱雑に描いているように見えて、バランスを意識しながら描かれた作品というのは確かにあって、一見雑に描かれているようで、ラクガキのような見かけがあっても見飽きないものです。
花をモチーフにした作品が目立つように思いましたが、個人的に好きなのは風景的な作品でした。実際に風景を描いたわけではないかもしれませんが、風景のように見える作品がいくつかあり、その作品は見飽きませんでした。
作家作品の根っこには「言葉」があるようで、筆記体で書かれたセンテンスの線が暴れて抽象的な絵画に展開された作品もあるように思えましたし、あるいは言葉が持つイメージを構造的に展開した作品もあるように思いました。「言葉」を絵画に展開する作品というと荒川修作を連想するのですが、荒川作品はずっと幾何的でロジカルな、「言葉」と「言葉がさすもの」との関連性などを強く意識しているのに対して、サイ・トゥオンブリー作品はずっと感覚的なとらえ方に終始しているように思います。言葉そのものはロジカルなものですが、その言葉が指し示すものはあいまいで広がりを持っています。ただ、その「指し示す」メカニズムそのものは頓着せずに、言葉からの広がりを追い求めているのが居心地の良さにつながっているように思いました。
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