■多和圭三の作品は数年前、神奈川県立近代美術館葉山のプライマリ・フィールド展で目にしていた。確か〈原器-正六面体〉というタイトルだったように思う。鉄の立方体をハンマーで細かく叩いて柔らかい形を与えていた。鉄という素材から連想する硬さと、形状から連想される柔らかさが共存している不思議なオブジェクトだった。
今回目黒区美術館で開催された展覧会では、またあの不思議な鉄の塊を観ることができるのかと予想していたのだけど、また違う鉄の姿を見ることができた。
彫刻という技術は木や石を削ることで形を表に出すわけだけど、多和は鉄を刻む、叩く。単に形状を加工するだけなら圧延なりルーターなり加工機械があるし、鋳鉄という技術もある。しかしそうした技術を使わずにひたすらハンマーをふるった結果、鉄の表面にはそのアクションの痕跡が残る。
作品によっては、そのハンマーの打撃跡はさざ波のようにも見える。凍りついた水面は展示室の光の加減で突然現れる。その瞬間、硬く重たく横たわる鉄の塊がその表情を一変させる。
以前の「プライマリー・フィールド」ではハンマーの打面が鉄の表面に残り、穏やかな表情を作り出していたが、ハンマーの縁を打ち込んだ作品は無数の鋭いエッジで覆われ、触れるもの全てを削りそうな鉄の結晶のような塊となっている。その造形はハンマーを叩き込むことでしか得られないものだろう。
数え切れないほどの打撃によって鉄は姿を変える。変形した鉄塊の背後にはハンマーを振るい続けた作家の姿がある。会場ではハンマーを打ち込む姿を延々と映したビデオも上映されているが、これらオブジェクトはそうしたパフォーマンスを連想させる鍵になっているようにも思う。
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