■広島市現代美術館で「一人快芸術」展が始まった。プロの、というのも変だけど、アート市場で名の知られているアーティストではなく、市井の人の手による創作行為、それも単なるアマチュア絵画ではなくて例えばジョセフ・コーネルとかヘンリー・ガーターみたいな、個人的にこつこつと続けられたユニークな作品が集められている。NHKBSに「熱中人」という番組があるけれど、そこに取り上げられそうな(というか、そこで観たことがあるのもあった)作品という印象。
時期的にコレクション展はまだ開かれておらず、「サイレント展」が無料公開されていた。いいのか、この展示を無料で公開して。だいぶ面白かったです。「静寂そのもの」というより、「静寂を感じさせる」作品。儚い音や、「間」に意識を向けさせる作品が多いと思いました。
例えば有名なジョン・ケージの「4分33秒」とか、あるいはクリス・マーティンの「今何時ですか?」など。
うれしかったのは以前、原美術館のコレクション展でビデオ映像だけで見た「ビニール」の実演を聴くことができたことです。「ビニール」は精製水の氷で作ったレコードを再生させるのですが、再生させると針と氷の摩擦で溝はどんどん溶けていってしまう。消えていってしまう音なわけです。
広島現代美術館を出て比治山をくだり、鶴見橋を渡ってArt Space HAPへ。貸しギャラリーです。この日は宮丸翔子さんの個展が行われていました。レモンやタマネギの皮を剥き、その剥いた皮を加工してリボンのように見せたり、蝶のように造形したりしています。
会場に入ると宮丸さんが机にむかってせっせとレモンの皮を剥いていました。作品が生ものそのものなので足が速く、展示中にみるみる乾燥してしぼんでいってしまうため、次々と新しく作り直しているとのこと。
過去にはタマネギの薄皮を剥いて花に造形した作品もあり、その経過写真を1年以上撮りためたものを見せていただいたのですが、その変化が面白かったです。
生ものなので、展示中に形を変えていく。レモンの皮を剥いて作られた美しい造形も一時の姿でしかないわけで、その変化する過程を見せるという見せ方もできるとは思いました。ただ、宮丸さんとしてはその一時の美しい姿を展示したいとのこと。そのコメントを聞いたときに、若いんだなあとそんなことを思いました。
忘年会続きで酔っ払いとしょーもない会話が続いていた時のことだったので、だいぶリフレッシュされた気がしました。少なくとも宮丸さんの作品に使われていたレモンから平穏な気持ちを得られたのは確かです。