■当たり前のことではあるけれど、例えば今横浜美術館で開催されている印象派展の絵画は全て、人の手で描かれている。ただ、その描いた人の動きは普通、意識されない。絵画であれば「タッチ」と呼ばれる筆の運びに画家のアクションを読み取ることはできなくはない(これについては解像度の関係で印刷物やビデオ映像で観ることはできない)。その「タッチ」が極端になっていくと何かを描いているというより、作家の動きを記録する媒体のようになっていく。
パフォーマンスや演劇は「身体の動き」を表現に使っている解り易いジャンルだけど、それとはまた違った形で「身体の動き」をテーマにした作品というのもそれはそれで多い。動かすのは作家自身の身体であったり、観客の身体であったりする。その動きも単純に演者の舞踏のようなものもあるし、別の意味でシンプルにアーティストの身体を作品の素材(たいていは映像素材であることが多いのだけど)としていたり、あるいは観客にある行為をさせる、参加型のパフォーマンスであったりもする。
広島市現代美術館で秋口まで開催されている「もっと動きを:振付師としてのアーティスト」はそうした「身体の動き」をテーマにした、あるいは手段とした作品を集めた展覧会。「珍しくもない」と言ってしまえばそれまでですが、おそらく夏休みを意識したテーマ選びだったのではないかと思います。白髪一雄や田中敦子の「具体運動」を入り口に配し、インスタレーションやパフォーマンスを記録したビデオ作品など、動きがあったり、あるいは観客が参加するようなものが多く楽しいつくりになっていました。中国地方でパフォーマンスアートというと山口のYCAMが活発ですが、あちらよりはずっとエントリーしやすいように感じました
同時開催の常設展示はこの時期、広島だけにテーマは「ヒロシマ」。さすがに何度か観ている作品も多くなってきたのですが、それでも小沢剛の「ベジタブル・ウェポン・スペシャル」が展示されていてよかった。この作品は好きです。写真作品なんですが、どのようなものかはググると出てきます。原爆ドームを背景に3人の黒衣の女性がダイコンを銃のように構えているのがその作品です。他には奈良美智の「Missing in Action -Girl Meets Boy-」で描かれる少女の邪眼が忘れられません。
広島という土地を考えれば仕方の無いことだとは思うのですが、ただ、毎回夏になると「ヒロシマ」を扱わざるをえず、それが鎮魂や回顧にバインドした作品にどうしても寄ってしまう。その中で「ベジタブル・ウェポン」は前向きなメッセージで、そこがこの作品の魅力になっている。
常設展示は写真撮影可だそうで、さっそく撮りました。もちろんオリジナルのリプリントがあれば、とか思いますが、あのサイズでは部屋に飾るわけにもいかず。PCの壁紙にするのがせいぜいです。