■三島にあるクレマチスの丘に前回訪れたのは盛夏の中でその暑さに辟易としたけれど、今回訪れたのは冬のさなか。さすがに寒い。三島駅でシャトルバスを利用してクレマチスの丘へ。夏の頃は緑の色濃かった箱根西側の高原地帯も今は多少色あせている。しかもあいにくの曇天で、寒々しさはひとしお。今回はヴァンジ彫刻庭園美術館の戸谷成雄展とイズ・フォトミュージアムの野口里佳展が目当て。
二人とも2011年のヨコハマトリエンナーレに出展していて、戸谷さんの作品は木材をチェーンソーで大胆に刻み込む荒々しい作品で、その一方で動物の臓器を覗き込むような、生々しい柔らかさを感じさせる。自然の状態で見る樹木とは姿を大きく変え、心象としての樹林や林、森の姿を思わせる。ヴァンジ彫刻庭園美術館での展示にあわせて制作された新作もあり、それが企画展のタイトルにもなっている「洞穴の記憶」。板に碁盤状の切れ目が細かく刻まれ、遠目には集積回路を模しているようにも見える。「記憶」というものが集積回路状のオブジェに模されているのが面白い。集積回路は一種の記憶媒体ではあるけれど、記憶そのものではないわけだけど、そうしたイメージをもたれているということなのでしょう。
もう一つのフォトミュージアムでの野口里佳展も面白かった。新作のほかにも初期の『創造の記憶』を含めた個展で、野口さんの作品の作り方の変化がわかる。『創造の記憶』で特徴として見てとれるのは大きな構造物に取り組む小さな人間の姿で、そこに写る人の姿にはどこかユーモラスな雰囲気が漂い、優しい視線という印象を受ける。作られた構図に特徴があったのだけど、それがしだいに曖昧なソフトフォーカス的な画像へと変わり、新作では境界のぼやけた色のコンポジションとなる。
でも、基本的にきっちりした構図を持った絵作りになっていて、しかし厳格なものではなく優しい視線なのは変わらない。そんな印象。
こちらの写真展側が気に入ってしまい、ただ、荷物はあまり持てないのでミュージアムショップで野口里佳を特集したPHOTO GRAPHICAのバックナンバーを購入しました。こちらも面白かった。