■神奈川県民ホールでは例年「日常」として若手現代美術家のグループ展を扱ってきていて、今年ば会場をKAATに変え「日常/オフレコ」として開催。KAATは演劇に使われる建物で、その中での展示は舞台装置のようでもあったけど、その印象は別に的外れではないと思う。「インスタレーション」は非日常的な空間を作り出す装置でもあるはずだから。
今回のグループ展では八木良太氏の「レコード」系作品が展示されていて、さすがに何回か観てきたので新味は感じないのですが、その手法はやはり面白い。カセットテープを切り取って球面に貼り付け、その球体を回転させて磁気ヘッドで読み取って音や映像を出力する仕掛けだけど、この結果の出力はもちろんまともな再生にならない。ただ、球体の回転が精度良く再現できるとしたら、再生された音や映像を再び記録することで元の球体上に磁気情報を再現できるはずで、そこからオリジナルのカセットテープに近いものを再現することも可能だろう。
八木良太氏が見せているのはプロトコルの解体と再構築であり、日常の中で意識されていないメカニズムを露わにしているのが面白い。最近のデジタルデータになると媒体読み出しのプロトコルを改変してかつ(ノイズであったとしても)出力するのは大変なので、同様のアプローチを続けるのは難しそうだし、コンピューター処理がどうしても入って物理的に見せるのも大変そう。ただ、ICCでデジカメデータが壊れていく過程を作品にしたものを観たことがあるから、何らかの手法はあるだろうと思う。
KAATの建物にはNHK横浜放送局も入っていて、「日常」を見に行った土曜日には無料コンサートが開かれていました。演奏していたのは洗足音楽大学ジャズコースの学生さんで、スタンダードナンバーの生演奏を聴けました。コンサートホールではなく、KAATのアトリウムで音響は悪いけど楽しめました。
神奈川県民ホールとKAATの性格は似ているのだけど、施設が新しいことによる展示空間が持つベースの雰囲気の違いというのはやはりあって、どちらがいいかといえば、KAATの方が面白かったです。神奈川県民ホールは古びた、というよりはくたびれた、という感じで、ちょっと中途半端な感じになってしまっていると思います。今は全面改修工事に入ったので、改修後また違った空気の中で展示できるようになるのかもしれません。