■いわゆる「地域アート」のブームで、9月から10月にかけて開催される山形ビエンナーレもその一つに入ると思う。山形市街からほど近い東北芸術工科大学が主催で、会場は山形市内の文翔館と東北芸術工科大学を中心して5カ所ほどに分散している。分散規模はこないだのSIAFや春先のいちはらアートXミックスとは違いずいぶんコンパクトで、移動だけで一日の大半がつぶれるようなことはなありませんでした。ただ、イベントの規模も小さめで、中心になっているのはライブコンサートやトークイベントです。
行ってみて山形市内には古い石造りの建物が多く残っていることを知りました。市街部そのものもコンパクトで、駅前から文翔館まで巡回バスがまわりますが、歩いてもせいぜい20分程度。作品展示会場としては文翔館がメインで、梅佳代さんが現地の小中学校に入って撮影した数十枚の写真がある、というのが自分にはとっかかりになっていて、ほかの作家については不勉強ながら見当がつきませんでした。
芸術監督を務めているのは絵本作家の荒井良二さん。作品も展示されていて、そのモチーフになっているのは「門」 門をくぐって山形という土地に入る、そうした抽象的な意味が込められているのだと思います。SIAFと対象的だと思ったのは、「都市と自然」という対立項がここにはなく、自然と共生している生活の場がここにはあって、ビエンナーレへの来訪者は門をくぐってそこに入る恰好になっているように見えることでした。
主催側は「参加型」を強調しているのですが、要は観覧対象となる作品が少なく、ワークショップやライブイベントが中心になるということで、短期滞在ではスケジュールを合わせられないのが難点です。作品観覧は全て無料で、人を呼んでのイベントに課金される恰好になっています。会場規模や作品点数と併せて考えて、低予算なのは確かなのですが、あまり疲れた感じがしないのは地域巡回型になっていないことと、分散会場と行き来するコストがあまり高くないからかもしれません。いちはらアートXミックスやSIAFは滞在期間に比べて会場間を行き来する時間と手段を考えるのがパズルのようなところがあったのですが、山形ビエンナーレでは最悪歩いても何とかなる(東北芸術工科大学から山形市街まで1時間程度)のであまり悩まなかったのは確かです。
その東北芸術工科大学は期間中の常設展示は「ひじおりの灯」があるきりで少々さびしい。「ひじおりの灯」は灯篭の一種で、正直言うと事前に期待はしていなかったのですが実際に観てみると引き込まれました。描いているのは同大学の学生で、学生の平面作品展示と似通った要素はあると思うのですが、灯篭に描くというフォーマットを通していることでインスタレーション作品のようになっていました。作品形式のフォームに沿うことで再編集されたと言えるのかもしれません。
東北芸術工科大学会場の難点はバス本数が少ないことかもしれません。行きは良かったのですが、帰りのバスがなく、結局歩くことに。途中に「やまがた藝術学舎」という施設があり、ここではスガノサカエさんが描きためた作品が一覧展示されていました。一つ一つは小品ですが、まとまることでその反復性が少し脅迫的に見えてきました。会場隅には彫刻作品もあったのですが、なんとなく草間彌生的を思わせる造形がありました。全国区ではなくて、地元で細々と創作を続けてきた人をフィーチャした展示で、予算的な側面はあっただろうと勘繰らずにはいられないのですが、あくまでも地元山形にスポットをあてて外部に発信する、自力の要素が大きい企画のようにも思いました。
つい先日のSIAFと比べると、作品点数ではSIAFの方が充実していたのは確かですが、観て回って疲れないのは山形でした。SIAFの時に感じた、地元との微妙な断絶感がなく、山形側からの発信というのが解りやすくなっていたからかもしれません。また、市街の規模がコンパクトで、喫茶店のはしごや食べ歩きなどを織り込んでも十分に観て回れるということがあったからかもしれません。気持ちに余裕が持てたのは確かです。その喫茶店めぐりなどについては後日。