■九州新幹線が開通して、博多以南へアクセスしやすくなった。博多以南で行ってみたいと思っていたのは熊本の熊本市現代美術館、霧島の霧島アートの森。ただ、霧島は鹿児島からさらにアクセス手段が必要で、まだまだ簡単に行ける場所ではない。熊本の方は九州新幹線開通を記念して現美の展示が始まっていたので、順当に熊本に行くことにした。九州新幹線を乗り潰すことにはならないけど──考えてみれば自分は鉄ではない。
博多で「みずほ」に乗り換えて30分ほど。熊本駅前で市電に乗り、通筋町へ。市電は全区間一律150円。だけど、バスの方がはやそうですね。低床型の新型車両ではなく、1両編成の旧型の車両に乗ったのですが、ガタゴトと走行音が大きく、運転手のアナウンスは始終入って広島の市電よりも賑やかな感じがします。
商業ビルの中に美術館が収まっているのは博多にある福岡アジア美術館も同じで、買い物のついでに寄ることができる、カジュアルな美術館。重々しく構えた建物はなく、雰囲気としてはどこかのホテルのホールを借りて開かれたギャラリー展示のような印象もある。
「水・火・大地」は自然をモチーフにした作品を集めた企画展。杉本博司、遠藤利克、千住博、淺井裕介、蔡國強、リチャード・ロング、ディヴィッド・ナッシュ、アンディー・ゴールズワージー、と名前が並びますが比較的新しい作品は少ないようでした。全くの新作は淺井裕介の泥絵、遠藤利克のインスタレーション作品になります。
「水・火・大地」というとランドアート(の記録など)やフィールドを舞台としたビデオ作品なども含まれそうですが、そうした作品はなく、絵画、写真、彫刻、インスタレーションが主で、他の美術館収蔵展などで目にしたものも多かったです。個人的に印象が残ったのは、やはり淺井裕介と、こちらは今回初めてお目にすることになった遠藤利克の作品『空洞説─熊本』でした。淺井さんの作品は泥絵で、昨年福岡アジア美術館に収蔵されたものと同じタイプです。床から天井までの高さを使った大きなキャンパスになりますが、天井高がアジ美のロビー(あちらは2フロア分だから比べるのは酷だが)よりも低いので、あちらに比べるとやや小振り。でも、アニミズム的なモチーフに溢れた、混沌として豊饒なイメージは展覧会のタイトルに相応しい作品になる(観に行ったときはまだ鋭意製作中でした)と思いました。
遠藤さんのインスタレーションは荒々しく、力強いものでした。展示室内に轟々と響く水音を背景に、表面が炭化した丸木舟が置かれているのですが、水と火が対峙しつつも前に進もうとする意志を感じさせ、見ていて励まされるような、力づけられるような印象が残りました。神話的、原初的なイメージを孕んだ作品で、自然の荒々しいエネルギーを見せ付けられた後でも耐えられる作品であるように思います。