■久しぶりの博多。福岡アジア美術館の展覧会情報がアップデートされていたので出張ることに。ついでに福岡市立美術館で藤野一友の回顧展情報。藤野はSF読みなら知っているヴァリス三部作の表紙絵を描いた人。「抽象的な籠」「眺望」「卵を背負った天使」がそのタイトル。市美の過去の展覧会は日本画とか印象派とか、ちょっと今の自分のレンジ外なので巡回しようとは思わなかったのだけど、そういう事情なら話は別で。
同時期、アルティアム、紺屋2023、3号倉庫では企画展が無いか、自分の興味外だったので今回天神はパス。中洲川端のリバレインと大濠公園の市立美術館の2箇所。
アジ美は韓国・釜山市立美術館コレクション展と常設。常設にはアーティスト・イン・レジデンスの中で制作された作品も。釜山市美コレクションは1940年代頃から現代に至るまで。戦中は帝大留学生の作品が多く、そこに占領統治下の陰を見て取ることは容易だ。それと同時に、合わせ鏡のように互いの文化が共鳴しつつ互いのオリジナリティを織り込んでいる過程が今も同様に続いていることに気がつく。
常設は過去に見た作品を再配列したものが殆どで、あまり入れ替えがなく、そこは少し残念。
AIRでの制作作品の中ではキム・ヨンジンの「ブランコ─母の鏡」が印象的。ビデオインスタレーション作品で、サイズが大きいというのも印象に残る理由の1つではあるけれど、四方の壁に投影されたブランコにのる女性が各々母の名と娘の名を呼び合い、その彼女らの姿が次々と入れ替わっていく様は延延と続く母─娘のサイクルを思わせる。娘から母への呼びかけは、いずれ応えがなくなるが、その時娘は母になり、娘から呼びかけられている。
アジア美術館を出て、リバレイン地下のギャラリーアートリエへ。展示されているのは万野幸美の「White Canvas」 絶滅危惧種の動物を多数描いた優しい展示。生物多様性という最近のテーマにも沿っている。でも、ナイーブかな。人間がいてもいなくても、絶滅した種は数多く存在している。そしてまた、人間が絶滅に加担しているのだとしたら、そのシステムに、自分自身の含む絶滅のシステムに言及しないのは無責任というものだろう。
中洲川端から大濠公園へ。ここには大きな池があるのですが、平野の真ん中に忽然と表れたようでどこか不思議な感じがします。この池はもともと入り江だった地形を封じて出来上がったものという説明看板を見つけて、納得しました。
福岡市立美術館はこの公園敷地内、というかかつて城だったエリア内にある美術館。建物は古いようですが、床面積はだいぶ広い。
藤野一友の絵画はシュールレアリズムの作品で、そのイメージは様々な解釈を試みることが可能だけど、特に特定の解などそもそも持ってはいないだろう。ヴァリス三部作『ヴァロス』『聖なる侵入』『ティモシーアーチャーの転生』の表紙絵として見覚えのある絵も、(当然)その本物が展示されていました。ちょっと保存状態がよくなさそうなのが気にはなりましたが、シュールなイメージを愉しみました。