■スケジュールの隙間的なところを狙ったように東京オペラシティアートギャラリーでは新しい企画展。ついでにICCでは東京藝術大学の学生さんの頃から気になっていた越田乃梨子の個展も始まっていて、そりゃまあ、行かないわけにはいかないでしょう。そういうわけで初台へ。
TOCAGの企画展はドミニク・ペロー展。建築デザインですが、単なる都市景観ではなく、都市地形とでも言うべきものを現出させる。「新しい建築をいかに文化的、地理的な背景と結びつけ」とキャプションにはあるのだけど、展示ではその文化的・地理的なコンテキストの説明が一切無いため、奇抜なオブジェとしての現代建築物、という印象が先にくる。その意味ではあまりいい展示形式ではないように思う。
どちらかと言えば、面白かったのはコレクション展の方。版画の特集で、様々な作品が。印象に残ったのは内間安せい(王ヘンに星)、斎藤千明、青木野枝、伊庭靖子。個人的にビビッドな色がリズミカルな配置を持つ作品に目が留まる傾向があるみたい。青木野枝は彫像でしか知らなかったので、ちょっと驚きました。水冠シリーズ。青木の作品はその大きさもあって、その場に何かの存在を感じさせ、場の雰囲気を厳かに締めるようなところがあると感じるのだけど、版画にはそこまでのものを感じさせることはなく、ずっと穏やかでした。
やはり圧倒されたのは伊庭のリアルな作品で、おそらくトイカメラで撮影した写真を元に絵をおこしていると思うのですが、ボケ味や色収差まで描きこまれているという点はもとより、例えばトイレットペーパーを描きおこしたものであれば、その紙のケバまで丁寧に描かれていて、おそろしくリアルであるのと同時に、写真ではないという微妙にリアルのズレた感じが面白いです。
ICCは久しぶり。オープンスペースは今まで統一したテーマが無かったのですが、今は「映像メディアの歴史」に絡めての作品展示。アートというよりテクニカルにウェイトがあるように感じましたが、それはそれで。
ただ今回目当ては越田乃梨子のメディア作品。
越田は2つのカメラで撮影した映像を合成して1つの空間を幻出させる。ふたつの空間を接続しているのだけど、もちろん実際に空間が連続しているわけではないので、画面内にはある〈特異線〉が存在する。演者はその特異線を意識して行動しているが、時々演者がその特異線を越えて、空間が破綻する。
何かストーリーがあるわけではないし、仕掛けもすぐに解るのだけど、その効果が単純に面白い。「ね次元」が観ていて楽しいかな。最新作の「机上の岸」は伸縮自在な〈机〉が両端の距離感を示しているようで面白い。この映像もやはり画面中央に特異線が存在していて、演者がそのラインをどう越えるのかが技術的な一つのポイントなのだけど、それとは別にその合成された空間の特徴を芝居にうまく生かせられるかどうかで作品に引き込まれるかどうかが決まるように思う。