■名古屋から離れる前に、最後の伊勢参りに。伊勢参りと言ってもいつものように神宮は素通りしてさらに南。南伊勢町にある伊勢現代美術館(CAMI)へ。訪問したのは2月半ばで、季節にしては妙に暖かかった日。伊勢志摩の地域に約1年通して訪問したのが初めてのことだったので、この地域はこの季節もう暖かいものだと思っていたら、そんなことはないよと笑われました。
そこには多分に経済的な側面もあるとは思うのですが、CAMIでは毎年fresh展として美大を卒業したばかりの作家さんによる企画展示を行う、一種のインキュベーション的な活動をしています。
昨年の東京藝大から出た渡辺水季さんが、ZAIMのグループ展からICCの企画展、都写美の展示とステップアップする過程を見ていると、プレゼンテーションの重要さとか厳しさというのが自分らの仕事の比じゃないなというのが良く解ります。東京圏であればそのプレゼンテーションというか、セルフプロモーションできる場というのがあるのですが、東海地方ではその場所というのが良く見えない。ギャラリーは数多くあるらしいのですが、まとまった情報としてはあるようなないような。
自分のような圏外の人間から見える、現代美術を専門に扱う美術館といったら豊田市美術館とCAMIくらいなわけです。で、そのうち結果的にせよインキュベーション的な活動をしているのはCAMIのみということになります。
そのCAMIの2009年のfresh展は2月の占部史人展を皮切りに始まっていて、最後の訪問はどうにか間に合いました。占部展についてはCAMIのウェブサイトでの紹介で気になっていました。桐箪笥を使ったインスタレーションということで、写真とキャプションからだいたいどういった展示になるのかという見当はつきます。昨年のfresh展は後半しか知らないのですが、その後半のラインナップに挙がっていた若い作家さん達と比べるとベクトルがだいぶ違っているような気がしました。
朝早く起きるのがちょっとしんどかったので、順当に伊勢市駅からバスで南勢野添(「なんせい・のぞえ」と読むのだということが最近ようやく解った)へ。春先の暖かさとは言え、風はやや冷たい。
昨年のfresh展はCAMIの2Fにある小さめの第二展示室が使われていたのですが、今回の占部史人展は1Fの大型展示室が使われていました。
そこが使われているというのはブログで知っていたのですが、写真で見るとオブジェのサイズがなんか小さめに見えていて、あの広い空間では間が持たないのではないかといらぬ心配をしていたのですが、行ってみれば、いらぬ心配でした。
展示室中央にあばら家のような、大きなボリュームを持つインスタレーションがあり、周囲の壁に桐箪笥や額装されたドローイングが展示されていました。
桐箪笥の引き出しを開けると、中に小さなテラコッタのお人形が置かれ、老夫婦の日常を再現しています。かつて桐箪笥が置かれていたであろう生活空間を逆に引き出しの中に凝縮する造りをしているわけです。そして、その桐箪笥がオブジェとして生活空間から切り離されていることと、肝心の桐箪笥そのものがぼろぼろになっていることを思えば、その生活シーンも既に失われていることを予感させます。引き出しの中にあるのは、桐箪笥そのものが見ている夢のようなものと言えるかもしれません。
中央のインスタレーションは展示室入ってから反対側に回ると中を覗けるようになっているのですが、そこでは三畳の空間の真ん中に小さなおじいさんが一人食事をしているテラコッタの模型が置かれています。タイトルは「孤食」。
正直、すごい人を見つけて来たものだと思いました。若い人にしては枯れていると言えば枯れているように思うのですが、箪笥の中に世界を作り、観客に引き出しを開けさせるという仕掛けが単純に面白いですし、単なる懐古趣味にとどまることもなく社会的な視点も持っています。かといって強い批判性をもって暑苦しく迫ってくるわけでもなく、こちらを静かに引き込むような雰囲気がありました。これは観客の側が「引き出しを開けて覗く」という能動的なアクションを伴うからかもしれません。
美術館スタッフ(というか、館長夫人ですが)から伺ったところでは、お寺の跡継ぎだそうで、作品の枯れ具合に妙に納得しました。
ちなみにCAMIでは大型の彫刻作品を展示する、屋外展示場が美術館の敷地から少し離れた場所に増設され、今年の1月末から公開されています。以前は美術館本館の前庭にやや窮屈な感じで海を背景にして並んでいたのですが、今は広い敷地で、かつて棚田があったという雑木林を背景にしています。この屋外展示場の件は昨年から耳にしていて、名古屋を離れる前に観ておきたいと思っていたのですが、こちらも間に合って良かった良かった。