■原美術館に行ったのは猛暑厳しい中。「安藤正子─おへその庭」は熱量のある作品が多く、夏場に観るのはちょっと厳しいような気もする。タッチの残らない絵はプリンタで印刷されたようにも見える。モチーフは子供や小さい動物で、それらへの優しい目線に見ているこちらの気持ちも優しくなるが、よく見ると絵の中に不穏な気配を持つものもある。
無垢と暴力はもちろん同義ではないが、相反するものでもない。命は他者へ働きかける力を持っている。その力は時として暴力的になる。ならざるを得ない。
しかし作家がモチーフに注ぐ眼はあくまで優しい。画面は時として花に溢れる。蝶が舞い、孔雀が羽を広げる。しかし画面の隅では地に落ちた蜂や蝶が燃え上がっていたりする。
あるいは、子供と大人との境界に佇む少女が描かれている作品もある。「スフィンクス」は少女がテーブルの上に乳房を乗せたバストショットで、女性の頭部を持つ獅子として描かれるスフィンクスの姿に似ている。特異に眼を惹くのはその両脇にランの花を挟んでいることで、そこから〈性〉を連想させる。スフィンクスの問いかけは人のライフサイクルに根ざしたものであり、命を宿す女性の姿を持つのは必然なのかもしれない。
印象に強く残ったのは「雑種」という鉛筆画の作品で、そばかすだらけ、髪はぼさぼさ、だんご鼻、と器量が良くない少女のバストショット。全体的にタンポポの綿毛を思わせる羽様のものが全面に描かれている。セーターを着ていて、その模様には手をつないだカップルが描かれ、その結ばれた手から立ち上がった花が咲いている。その柄は少女が愛されている中に生まれたことを暗示させる。経済的に豊かな様子ではないし、器量も良くはなさそうだ。それでも画家の視線は優しい。
手間のかかる技法で制作しているため寡作であり、個展としては会場が余ってしまう。そのため原美術館のコレクションも併せて展示される、少し変則的な格好になっていた。名和晃平のPixelBox作品があって、それが涼しげで良かった。夏場にはこういうクールな作品がいいな。やっぱり。