■先週の資生堂、リクシルギャラリーと歩けば東京駅は眼と鼻の先。JRを渡って丸の内側には三菱一号館美術館がある。ちょうどバーン=ジョーンズ展がはじまったばかりということもあって、そちらに向かった。エドワード・バーン=ジョーンズはビクトリア朝の人物で、ラファエル前派とも関係があった。神話や物語に題材をとった写実性の高い描写で、そこから読み取れる物語が面白い。
バーン・ジョーンズは自身が神職を目指していた出自もあってか、題材の中にキリスト教からみのものが多く、高い道徳性を求めることを良しとしていたことが伺える。キリスト神話やアーサー王伝説、騎士道物語など、作品を観るには教養が求められ、それら物語場面を象徴として慈愛、従順、忍耐、恭順など「徳」が語られる。
そうした作品が受け入れられていたのは、当時の社会でのエスタブリッシュメントや、その予備軍となるような人たちだったのだろうと思う。
物語の場面に登場するのは美男・美女たち。その中で主体的に動くのは男性であり、女性は待ち続けるか、あるいは男性を堕落する存在として描かれる。たぶん、キリスト教の説話からの影響が題材の選び方に現れているのだろうと思う。
ちょっと意地悪い言い方をすれば、象徴主義の下で描かれた絵画はその絵を読み取るのに教養が要求されるから、そのことが社会的なステータスを表すちょうどいい場となったのかもしれないし、また知的なパズルという娯楽の側面もあったのかもしれない。
当時の社会的価値観をすでに相対化してしまっている現在では、その当時の受け取られ方そのものも読み解きの楽しみとしてしまっている。そこではもちろん当時の価値観に対する批判などは棚上げになるわけだけど(したところで今更意味はないし)、それは東京駅周辺の高層ビルが立ち並ぶ中に再建されたレンガ造の姿を見せる三菱一号館美術館の立ち位置そのものともかさなってくる。