■役所に隣接したオープンな現代美術館という立地は話に聞いていたように金沢市の金沢21世紀美術館を彷彿とさせる。通りを挟んだ敷地もオープンなスカルプチャの展示スペースになるようで、少しくたびれた市街の中で、この一角だけ明るく新鮮な風が吹いている。
東北新幹線や十和田観光電鉄を乗り継いで十和田市の中心市街に着いたのは14時半をまわったころ。駅舎から出て驚いたのは、どちらに行けば何があるのか見当もつかないことだった。歩いていける距離に官庁街があるからそれらしき建物群が見えるのではないかと思っていたのだけど、全く見えない。事前にグーグルで地図を確認していて良かった。
例によって微妙な喩えになりますが、神奈川だと寒川の周辺地域みたいな。中心市街が宅地の中に拡散し、宅地が無人地帯に拡散していくグラデーションはどこにでもあるのですが、ここはその変化する傾斜がかなりきついようです。
美術館に向かう前にまずはホテルに立ち寄り。15時少し前にチェックインして荷物を置いて、改めて美術館へ。移動しながら食事できそうな場所を物色していたのですが、居酒屋・パブ・スナックが主流のようでちょっと困りました。
美術館は複雑な構造をしていて、まず、エントランスらしいエントランスが見当たらない。幾つかある展示室を連結する回廊の途中にある引き戸を開けて中に入るのですが、解らないって。先日行った水戸芸術館のエントランスは場所こそ解りにくかったですが、エントランスらしき構造は持っていたのでそれと解ったのですが、こちらはそもそもエントランスという構造を持っていません。少し迷宮めいた構造を持っていて、中に入ってからも迷いました。
金沢21世紀美術館と同じで、十和田市現代美術館も常設作品専門の展示室を持っています。チケット売り場で出迎えられるのが毎度おなじみジム・ランピーの床。原美の波紋でも森美のシックなものでもなく、ここのはカラフルなパターンです。続きの間にあるのはロン・ミュエックの巨大なばあさん〈スタンディング・ウーマン〉一般には老人は非力な存在と捉えられるものだと思うのですが、この作品から感じるのは力強さです。
常設作品で印象に残ったのは他にも幾つかあって、〈メモリー・イン・ザ・ミラー〉という作品は投影される映像と、その映像の前を横切るオーディエンスの影が混在した作品です。その影が影の主となりかわって映像の中に滑らかに入り込むのがミソで、優しい作品です。
〈ロケーション(5)〉はどこぞの夜中のダイナーといった風情なんですが、店の内装は黒一色で、夢で観たような景色にも思えます。〈ザンプラント〉は白一色の部屋の中に置かれた椅子とテーブルを上り、天井の穴に頭を入れるとそこは全くの異世界になっているという按配。そしてミュージアムショップの床はこちらもおなじみマイケル・リンの色鮮やかな花模様。
企画展はチェ・ジョンファの「OK!」ですが、企画展用に使える展示室は少なく、作品はむしろ美術館のあちこちにある隙間のような場所や、十和田市の商店街など、オープンスペースに拡散させているようです。
チェの作品は色遣いが中華っぽくて、1点、商店街の古いお店の軒先に下がっているものを見つけたのですが、妙にサイバーな感じになっていました。
ただ、正直、商店街の店舗空間に作品を拡散させるというのは、観に来ている側からするとちょっとしんどかったです。まず、そもそもお店が見つからない(定休日らしく閉まっているお店が多かった)ということがあるし、それにあまりにもドメスティックなお店が多いのでよそ者としては入りにくい感じがあったということもあります。お米屋さんや布団屋さんの店内でやられても、というのは正直思います。そのような企画を立てた意図は解るし、街に元気が出てくるようになってほしいとも思うのですが。