■もう終わってしまったけど、資生堂ギャラリーで先月まで開かれていたアートエッグの3月、川村麻純展が面白かった。'Mirror Portraits'という題のビデオインスタレーションは母と娘と思しき女性の姿を撮影した2つの映像を、向かい合わせにして上映し、「娘が語る母の記憶」を語るナレーションが流れる。この作品はもう1つあって、そちらは姉と妹がセットになり、「姉が語る妹の記憶」が語られる。
面白かったのは「娘が語る母の記憶」の内容や語り口がよそよそしく、対立的に語られているのに対し、「姉が語る妹の記憶」は距離がありながらもずっと親しげに語られていたことだ。編集作業により作者のバイアスが入り込んでいるかもしれないが、語られる母の印象はどこかよそよそしく、時として支配的姿勢に対する反感を読み取ることができる。
対して「姉が語る妹の記憶」は微妙な距離感を持ちながらもおおむねその視線は優しい。中には「親戚の人」のような距離のある語り方もまじるものの、ネガティブなものはあまり感じない。母-娘の関係には支配-被支配の関係が入り込むのに対し、姉-妹の関係はそうしたものにはなりにくいことは影響しているだろう。母との関係において危機感を抱くことはあっても、妹との関係において危機感を感じることはまずないだろう。ただ、「妹が語る姉の記憶」がどのような内容かは気になる。
母-娘関係が特殊なのは、娘はいずれ母になる可能性を孕んでいる点だろう。そこも姉-妹関係とは異なる。母-娘関係というのは相対的なものだ。梨木香歩の「からくりからくさ」では母が犯した過ちを、長い歳月を隔てて娘も繰り返すアラベスクのような構造を描く。娘が語る母の記憶は、やがて自らに向けられる言葉となり得る。
Copyright (C) 2008-2015 Satosh Saitou. All rights reserved.