■ようやく夏休みシフト明けの都現美。「ゼロ年代のベルリン」が始まったのは実際にはずっと早かったのだけど、展示室の一部が他の展示に使われてフルスペックではなかったので、全部の展示室が公開されるのを待って久しぶりに足を伸ばした。「ゼロ年代のベルリン」「建築、アートがつくりだす新しい環境」そして「常設」。一番面白かったのは「常設」かな。
「ゼロ年代のベルリン」はドイツアーティストの作品。ベルリンは歴史的には東西対立という政治的緊張感を抜きにした視点はあり得なかった場所だったと思うのだけど、現在はもちろん東西対決は過去のものであり、もはや視点としては成立しない。社会的な目線は外に向けられ、問題意識の高さが感じられる。もちろん、ファインアートとしての作品も展示されてはいたけれど、「キャスティング」やミン・ウォンのアイデンティティの混乱した(その一方で強烈に自己のアイデンティティを意識した)映像作品、フィル・コリンズ(ミュージシャンのPhil Collinsとは別人のようだ)の映像作品など、その目線は社会に向けられ、ルポルタージュ、ドキュメンタリーとはまた違う手法で社会に内在する問題・トピックを明らかに浮かび上がらせる。面白かったのはキリスト役の俳優を選び出す「キャスティング」かな。オーディションは、審査員がすでに持つイメージに沿った人物が選び出されるわけだけど、この「キャスティング」という作品は我々が漠然と抱く「キリスト」という人物象が過去に作られた作品の中に先行して存在したイメージが鋳型となっていることをあぶりだす。そうした先入観というイメージがこの社会にはあふれ、実像を覆い隠してしまっていることに気付かされる。
「建築、アートがつくりだす新しい環境」はSANAAが中心となった建築展。よくある模型展示、パネル展示と言ってしまえばそれで終わりだけど、面白かったのはフィオナ・タンの映像作品。なんとなく見覚えのある島の風景だなと思っていたら、昨年の瀬戸芸の舞台となった島の景色だった。その作品の中では島民の暮らしも押さえられていて、島を訪れた自分は知ることの無かった島本来の姿を映像に残していた。他にはヴィム・ヴェンダーズの映像作品もあって驚いたのだけどストーリー性はなく、プロモーションフィルムのようだった。
実際のところ、一番楽しめたのは常設展示で、特に3F会場。木、石など自然をモチーフとした作品を組み合わせ、遠い秋山の情景を想像させて面白かった。また、3Fでは淺井裕介の泥絵が製作中で、個人的にはつい春先に熊本市現代美術館での製作現場を見ていたので、奇妙な連続性を感じられておかしかった。淺井さんの描く泥絵は豊穣な神話のイメージをそこに読み取れるようで、見ていて飽きない。また、泥が持つ、穏やかな、あたたかな色調もまた良い。ここで描かれた泥絵が最終的には同美術館の中でどのように展示されるのかはわからないけど、訪れる人の目を愉しませてくれることは間違いないだろう。