■久しぶりの河村記念美術館。真冬に行ったのは初めてかな。Black展は「黒」を扱う作家の三人展。杉本博司、アド・ラインハート、ルイーズ・ニーヴェルンスン。杉本博司の作品は「劇場シリーズ」。アド・ラインハートの黒を基調にした版画は、一言に「黒」といっても多様な色彩がそこにあることを示す。ルイーズ・ニーヴェルンスンのスカルプチャーは家具などの身の回りにある品々が積み上げられ、何か古代遺跡のモニュメントのように構成されて、黒一色で塗りつぶされる。
杉本博司の「劇場」シリーズは、劇場の舞台ではなく、劇場の器をテーマとしている。白黒写真なので「黒」ということだけど、それはなんか強引と思う。「劇場」写真を見て気づくのは、教会と似た構造を持ちながらも、教会であれば信仰を集める象徴が収まるべき場所が空白になっていることだろう。
ニーヴェルンスンの黒い彫像は、おそらくベースになっているのは木や金属製の身の回りにある品々だと思うのだけど、それが積み上げられ、マットブラックに塗られることで、どこか古代遺跡のような風合いをまとう。使用している塗料の質感が元の材質を覆い隠してしまい、質感も色彩もフラットとなって、ただ積み上げられたディテールだけが残る。その結果として何か古代遺跡めいた印象が出てくるのが面白い。普段からそういうものに取り囲まれて暮らしているのだけど、気が付いていないわけだ。
好みで言えば、アド・ラインハートの版画が良かった。黒と言っても、実際にはそのカテゴリーに含まれる「黒」は多様な色彩を持つ。その色彩の配置が落ち着いていてよかった。遠目にはただの黒い四角にしか見えないのだけど、近づくと僅かな黒の差異に気が付く。「黒」という言葉がずいぶん乱暴なカテゴリーであることに気づかされる。
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