■ジョセフ・クーデルカは社会主義時代のチェコスロバキアに生まれた写真家。不運だったのか、あるいは幸運だったのか、彼が写真家としてキャリア歩みだしたのは1960年代であり、チェコにおける彼のキャリアは1968年のチェコ事件によって終わることになる。チェコ事件を撮影した彼のフィルムは彼の写真家としての名前を広く世に知らしめることとなったが、同時に彼を亡命せざるを得ない立場へと追いやることにもなった。亡命生活の中で撮影された写真は「エグザイル」シリーズとして纏められる。90年代の東欧民主化後、彼はチェコに戻るが亡命時代の流浪の旅は相変わらず、行く先々で撮られた写真は「カオス」シリーズとして纏められる。
彼の写真にはどこか寂寥感が漂うのだけど、それは亡命後の「エグザイル」や「カオス」シリーズで顕著になっていくように思う。チェコ事件による60年代のプラハの春の終わりと、90年前後に東欧を襲った相次ぐ民主化の波と、彼は2回、大きな社会の変節点を見ている。その経験と亡命生活というアウトサイダー的な生活を続けた時期を持ったことが、彼の視線をどこか無常的なところへ持って行ったのではないだろうか。
「カオス」シリーズの中では古代ギリシアの遺跡と現代工業施設の無人の姿が並置される。そこに文明批評を読み取るのは簡単だけど、その視座は「現在」に対する距離を感じさせずにはいられない。それでいて荒廃した空気とはまた無縁であり、ニヒリズムともまた違うように感じる。やはり彼が置く視座は「無常観」なのではないかと思う。
面白かったのはとても横長の、パノラマ写真のようなフォーマットを使っていることで、その構図が映画のワンシーンを見ているような感覚を与えることでした。パノラマ写真の効果というのがそうしたところに現れるというのを知ったことも面白かったのですが、その写真を3つ組み合わせて一つの正方形の視野を作るとまた異なる印象を作れるということでした。組写真そのものは珍しくはないですが、ストライプを組み合わせることで1枚の作品のように見せられるというのは気づきませんでした。
もう一つは絞り開放で撮った極端なピンボケ写真で、その中で人の姿は光の中に溶けた抽象的な影となってしまう。そうした映像表現はCMなどで目にしたことはあったのですが、その技術や視覚効果そのものは60年代にはすでに知られていたということも発見でした。初期の作品はスタイリッシュな作品が多く、その後のチェコ事件が無かったら、どういうスタイルの写真家になっていたか想像することも面白かったです。