■森美術館で新しく始まった企画展は「リー・ミンウェイとその関係展」 名前は初めて聞くような気がしたのですが、その作品というか、プロジェクトのいくつかはすでに観ていました。「レター・ライティング・プロジェクト」はついこないだ東京国立近代美術館でも展示されていた。「レター・ライティング・プロジェクト」はその名の通り、訪れた人が誰かに手紙を書くという私的な行為を蓄積し、オープンにするプロジェクトなので、作品があるわけではなく、そこで誰かが誰かに手紙を書いていた、という事実の蓄積を観ることになる。リー・ミンウェイのプロジェクトにはこうした人との関係性を可視化するプロジェクトが多いのだそうだ。作品ではないから、何かを観た、とは言いにくい。
「繕い・プロジェクト」は観客が持ち込んだ傷んだ衣類や人形などをアーティスト自身や、あるいは美術館のスタッフが館内の壁に取り付けられた糸巻から伸ばした糸で繕う。繕われたものは会場内に借り置かれ、展示期間中を通して展示される。糸巻から伸びた糸は切られずにそのまま残る。これも解りやすい「関係性」が可視化された姿だ。
「繕い」プロジェクトは9・11事件を契機に生まれたのだという。「繕い」の下敷きになったのは古代中国神話に登場する女禍が壊れた天を繕うエピソードで、作家は9・11以降に壊れた人間関係を繕う行為の象徴としてのプロジェクトになったのだろう。ただ、ビジュアル的には塩田千春の「大陸を越えて」を連想してしまった。塩田の作品は関係性を示した作品としてクローズしていたけど、その作品を作るために広く履き古された靴を募集していた。その作品制作過程を作品として公開しているのが「繕い・プロジェクト」と言えなくもないのではないかと思う。
作品そのものの展示は少ないので何を観る、というのが難しく、会場内の要所要所に設置されたモニターで作者が自作のプロジェクトについて語るビデオは必見ではないかと思う。夜に美術館へ来て、ホスト役と一緒に眠るプロジェクトとか、食べるプロジェクトというのは時間的制約もあって難しいけれど、そこに参加した時の気持ちを想像することはできる。