■都現美の新春企画はMUSACコレクション「驚くべきリアル」とMOTアニュアル「フラグメント」。「驚くべきリアル」はスペイン・ラテンアメリカの現代美術作品の紹介。社会的な背景を持った作品が多く紹介されていて、技巧的な作品はあまり多くはなかったような印象。社会的な問題、特に移民問題を扱った作品が目立ったのが少し意外な気がしました。そうした話は日本で報じられることがないように思っていたからです。
面白かったのはエンリケ・マルティの「家族」で、よくある家族スナップを油絵で模写しているのですが、その際に手を加えて不気味な仕上がりにしています。日常の裏に潜む狂気なのか、あるいは日常と狂気の差はほんの僅かなものでしかないことを見せているのか、はたまた単なる悪ふざけなのか。自分の家族写真を作品にして問題がないのだから、実際には悪ふざけのようなものではないかと思いますが。
対して「フラグメント」は全般的に面白かった。本を素材に作品を作る福田尚代、おそろしく細かい細工を見せる高田安規子・政子、自然の景観を幾何学立体にマッピングする吉田夏奈。吉田夏奈の作品は市原で観た直後で、ずいぶん露出が多くなっているような感じがする。昨年はJ-WAVEでもインタビュー出ていたし。
どの作家作品もどこかで観たことがある方ばかりというのはちょっと残念だったかも。ただ、社会問題に目を向けた作品の多い「驚くべきリアル」と手元に視線を向けて細かい技巧を極めていく「フラグメント」展は対照的な展示だったと思います。
印象に強く残ったのは細かい技巧を見せた高田安規子・政子の作品でしょうか。テーマも何も飛んでしまって、ただその技術に驚きます。吉田夏奈の作品も個人的には好きなのですが、展示空間が広すぎて薄い感じがしました。自然の景観を幾何空間にマッピングする面白さがあるのですが、拡散してしまった分印象も弱くなってしまったように思います。
ラジオのインタビューでは野鳥の鳴きまねを披露されていましたが、その小豆島での経験がもっと濃密な形で出てくるのではないかと楽しみにしています。