■渋川は遠いし高いしでそうそう行かないだろうなあと前回思ったのだけど、新しい展示が始まったと知って、また脚を伸ばしました。「ボディ・アンド・ソウル」フライヤーに使われているキー・イメージは同美術館が最近購入したミカリーン・トーマスの「ママブッシュ」。なんとなく見覚えのある構図は、ドミニク・アングルの「オダリスク」を彷彿とさせる。観海庵の展示は重文の「縄暖簾図屏風」をキーイメージとした展示ということで、楽しみはやはり現代美術作品とのコンポジション。どういう組み合わせで見せてくれるのだろう、そんな期待に押されて渋川へ。
やや雲はあるものの晴天。高空にははけで引いたような雲もかかり、残暑厳しくとも秋空の気配は確実に。
渋川駅について、即駅前のレストランで食事したのだけど、料理が出てくるのが遅くてバスに1本乗り遅れた。そのまま駅前で待つのも癪なので渋川駅前から離れて、少し先のバス停まで歩くことに。渋川駅前周辺は再開発されたような雰囲気で、建物は全て新しく、建物と建物の間もすこしまばら。なんとなく閑散としていて、一見いろいろとあるように見えて、実際にはそうでもない。たぶん、幹線道路沿いにスプロールしてしまって、駅前に集積する必然性がないのだろう。
20分ほどバスに乗って伊香保グリーン牧場へ。わき道を通ってハラミュージアムアークへ。ミカリーン・トーマスの「ママブッシュ:母は唯一無二の存在」はギャラリーA。他に加藤泉、篠原有司男、森村泰昌、刘建華、トム・ウェッセルマン。個人的には加藤泉の彫像が「ボディ・アンド・ソウル」というテーマにしっくりくる。加藤の造る彫像、描く人物像は異形なのだけど、何か特殊なカメラで写した人物の姿という感じがする。生命の本質がそこに見えているような。
ギャラリーBには米田知子、崔在銀、ヨゼフ・ボイス、束芋…は前回と同じ。熱は少なく、知的で静かな雰囲気。ギャラリーCにはローリー・シモンズ、シンディ・シャーマン、やなぎみわ、など。やなぎみわやローリー・シモンズの写真(ギャラリーAの刘建華のインスタレーションもそうだけど)は「ボディ・アンド・ソウル」というより、どちらかというといわゆるフェミニズム的な文脈を持っていて、「ボディ」にしては即物的すぎるし、なんとなく妙だな、などと思いつつ観海庵へ。
今回の目玉「縄暖簾図屏風」は縄暖簾をくぐる女性の立像を描いた屏風絵で、それにあわせて数点、女性像の描かれた古美術作品が展示されている。女性画像は鑑賞物として制作されてきた側面があって、そこには男性からの視線によって形成されてきたある種の理想像が入り込んでいる。その「欲望の視線」に対する女性側からの批判というものもあって、それがやなぎみわやローリー・シモンズ、刘建華の作品となる。そして、ミカリーン・トーマスの描く「ママブッシュ」ではふくよかで崩れた線のアフリカンアメリカの老いた女性の姿が描かれ、そのポーズから連想される「オダリスク」とは対極的な女性像となっている。ミカリーン・トーマスはその母親の姿を無数のスワロフスキーでゴージャスに飾り立てる。「オダリスク」の女性像が美しいように、「ママブッシュ」もまた美しいのだ。そうした視点を違和感なく受け入れられるまでに、価値観はすでに多様化し、共存できるようになっている。
作品を一通り観終わったあと、カフェで休憩。アイスクリームを注文。バニラ、チョコレート、抹茶を組み合わせられるとのことだけど、どうせ小さいだろうし、考えるのも面倒なので抹茶オンリーで頼んだら結構な分量が出てきてびっくり。確かに組み合わせたほうが飽きなくていいかも。
引き揚げ時間が近づいてきたので、若干の心残りを覚えつつ撤収。次はいつ来ることになるのか。もうちょっと涼しい時期がいいな。やはり。