■残暑厳しい、山口YCAM。久しぶりに訪れたのは、中谷芙二子+高谷史郎のインスタレーション展示が始まったから。高谷史郎は初めてだけど、中谷芙二子は一昨年の横浜トリエンナーレで作品に接している。三渓園の林に霧を流す「雨月物語」に想を得たという作品で、作品というより、舞台セットのようだなあと感じたことを覚えている。ただ、普段出会うことのないような濃密な霧にまかれると、途端に周囲が異世界のように感じられて、その印象も併せて覚えている。
いつものように湯田温泉駅で下車して30分ほど歩く。日差しの強さと暑さは昨年体験済みだけど、体験しているから馴れるものでもなし。ただ、昨年と違うのはあとどのくらい歩けば到着するかが感覚的にわかるから、徒労感というものはないことか。
中央公園に辿り着いてみると、さっそく遠くにスモークが見えた。この暑さだから、ミストというだけで単純にウケがいいだろう。
案の定、近づいてみると近所の子供と思しき集団が霧に巻かれていた。自分も巻かれてみると、思ったよりも濡れない。そして涼しい。しかも高い濃度で、ほんの1メートル先が見えない。芝生の公園が瞬時にホワイトアウトした空間に変貌してしまう。欲を言えば、オープンスペースの中で、もっと大きな容積を持った「雲」になってほしかったのですが、風がそれなりに吹いていてそれは見れませんでした。
屋内では、ホワイエに指向性スピーカーを使った擾乱された音環境作品、大きなガラス窓で区切られた中庭2つを使った「クラウド・フォレスト」──つまり、「雲」としてのクラウドと「群集」としてのクラウドというダブルミーニングとなっている。
中庭はガラスの天井を有する、温室状の空間でそこに霧が流し込まれる。湧き上がる。中庭に入ることもできるようになっていたので入ったのですが、こちらは案の定、熱帯雨林に近い状態でした。湿度が高く、気温も高め。霧は天井に設置された装置から流し込まれ、その音が雨音にも似て。登山していてガスに巻かれることは良くありますが、そんな状況に似ていました。ただ、過去に経験した山のガスよりはずっと濃く、水の雰囲気もより感じられ、視界不良もずっと強いものでした。
いつもは大型インスタレーション作品の展示に使われる2FのBスタジオが、今回は中庭の閲覧室に使われていて、そこから「雲」の動きを見ることができた。これは少し面白い体験だった。中庭に雲が流し込まれると、そのガラス窓の向こうが、あたかも雲に突入した旅客機の窓を連想させ、自分が高空にいるような感覚が引き出される。ガラス窓がYCAM内部空間の不連続面となって、異世界を覗いているような錯覚を覚える。
雲という現象は〈自然〉に属するもので、その空間が工学的な感触を持つYCAMの内部空間に出現していることが、その錯覚をより強くしているようだ。
中谷芙二子はE.A.T.に属しているアーティストで、エンジニアリングとアートの界面を活動領域としている。高谷史郎はダムタイプの創設者で、ダムタイプは言わずと知れたパフォーマンス集団。そういう意味で今回の展示はYCAMとしては自らのアイデンティティを示す象徴的な展示になっている。